表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第三回 如海(じょかい)内兄(ないけい)に託し 西賓(せいひん)を薦(すす)め 賈母(かぼ)外孫(がいそん)に接し 孤女(こじょ)を惜(お)しむ
27/273

第三回 11

入ってきたのは、一人の貴公子きこうしだった。

 紫金しきんの冠で髪を束ね、二龍にりゅうが真珠とたわむれる金の刺繡ししゅうの入った抹額ヘアバンドをはめ、金色こんじきの蝶が散りばめられたあかい袖の着物を羽織はおり、五色ごしきの糸で花を縫い込んだ宮帯みやおびめ、八つの玉房たまふさがついた石青あい色の倭緞わどんコートを上からかけ、青緞粉底小朝靴あおいろのブーツいていた。その顔は中秋ちゅうしゅう名月めいげつのように丸く、肌の色は春のあけぼのにひらく花のよう、びんかたなですっぱりと切られたように、眉は墨書すみがきのごとく、鼻は垂れ下がった胆嚢たんのうのように美しい鼻梁びりょうえがき、目は秋の波のようにすずやかだった。首には黄金のみずちの首飾りと、五色の絹糸きぬいと美玉びぎょくが垂れ下がっていた。

 黛玉は一目見るなり驚いて思った。

「不思議だわ。この人に会ったことがあるような気がする。どこか見覚えがあるもの……」

 賈母おばあさまは宝玉が挨拶あいさつすると、「お母さんにも挨拶しておいで」と言う。

 ややあって、宝玉は身なりを整えて戻ってきた。その短髪は紅い糸で一つ結びのみつあみに結ばれ、さきからすえいたるまで、うるしのように黒くつややかで、四つの大珠だいじゅが連なり、その端には黄金おうごん八宝はっぽうが垂れ下がっていた。

 銀紅うすべに色の花を散りばめたれ衣を羽織はおり、項圈くびわ長命鎖ちょうめいさ護符ごふを身に着けていた。腰から下は松花あさぎ色の花柄はながらズボンが見えており、錦織にしきおり靴下くつした厚底あつぞこあかくついていた。顔はおしろいを塗ったよう、唇はべにを引いたごとく、ひとみにはじょうをたたえ、その声は今にも笑い出しそうだった。


 賈母おばあさまは宝玉が進んで来るのを見ると、「お客さまに会わないうちに着替えてしまったのかい? 早くたいぎょく挨拶あいさつしなさい」と笑いながら言った。

 宝玉はこの新しい姉妹にもちろん気づいていた。すぐに近寄って挨拶をし、席に座ってからあらためてたいぎょくをよく見ると、他の人とはまったく違っている。

ひそんでいるようで顰んでいないけむのごとき両の眉、喜ぶようで喜んでいない二つのひとみ、両のえくぼうれいを生み、病をまとう身はなまめかしく、ほのかに光る涙は点々と、その息はかすかに切れ切れに、水面に照りかえる花のように静かで、もし歩けばやなぎのように支えねばならないだろう。

 この人がもしも古人なら、と宝玉は思う。その心は聖人せいじんと言われた比干ひかんよりも一穴多く、そのやまいは美人とうたわれた西施せいしよりも三分さんぶほどまさっているだろう。そして……。

 宝玉は唐突とうとつに笑いながら言った。

「この妹妹にはあったことがありますよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ