第三回 11
入ってきたのは、一人の貴公子だった。
紫金の冠で髪を束ね、二龍が真珠と戯れる金の刺繡の入った抹額をはめ、金色の蝶が散りばめられた紅い袖の着物を羽織り、五色の糸で花を縫い込んだ宮帯を締め、八つの玉房がついた石青色の倭緞の掛を上からかけ、青緞粉底小朝靴を履いていた。その顔は中秋の名月のように丸く、肌の色は春の曙にひらく花のよう、鬢は刀ですっぱりと切られたように、眉は墨書きのごとく、鼻は垂れ下がった胆嚢のように美しい鼻梁を描き、目は秋の波のように涼やかだった。首には黄金の蛟の首飾りと、五色の絹糸に美玉が垂れ下がっていた。
黛玉は一目見るなり驚いて思った。
「不思議だわ。この人に会ったことがあるような気がする。どこか見覚えがあるもの……」
賈母は宝玉が挨拶すると、「お母さんにも挨拶しておいで」と言う。
ややあって、宝玉は身なりを整えて戻ってきた。その短髪は紅い糸で一つ結びの辯に結ばれ、先から末に至るまで、漆のように黒く艶やかで、四つの大珠が連なり、その端には黄金の八宝が垂れ下がっていた。
銀紅色の花を散りばめた馴れ衣を羽織り、項圈、長命鎖、護符を身に着けていた。腰から下は松花色の花柄の褲が見えており、錦織の靴下、厚底の紅い靴を履いていた。顔は紛を塗ったよう、唇は紅を引いたごとく、瞳には情をたたえ、その声は今にも笑い出しそうだった。
賈母は宝玉が進んで来るのを見ると、「お客さまに会わないうちに着替えてしまったのかい? 早く妹に挨拶しなさい」と笑いながら言った。
宝玉はこの新しい姉妹にもちろん気づいていた。すぐに近寄って挨拶をし、席に座ってからあらためて妹をよく見ると、他の人とはまったく違っている。
顰んでいるようで顰んでいない煙のごとき両の眉、喜ぶようで喜んでいない二つの瞳、両の靨は愁いを生み、病をまとう身はなまめかしく、ほのかに光る涙は点々と、その息はかすかに切れ切れに、水面に照りかえる花のように静かで、もし歩けば柳のように支えねばならないだろう。
この人がもしも古人なら、と宝玉は思う。その心は聖人と言われた比干よりも一穴多く、その病は美人と謳われた西施よりも三分ほど勝っているだろう。そして……。
宝玉は唐突に笑いながら言った。
「この妹妹にはあったことがありますよ」




