第三回 9
黛玉が出されたお茶を飲んでいると、飲み終わらないうちに紅い絹の襖と背心を着た侍女が入ってきて微笑みながら言った。
「太太が林枯娘をお呼びするようにとの仰せです」
老嬤嬤はそれを聞くと黛玉を東南の三間の小さな正房に案内した。正面には暖房器具とそれ用の卓があり、書籍や茶器が置かれており、東側の壁に沿うように使い古された背もたれと引枕が置いてある。王夫人その向かい側に腰かけ、同じように背もたれと引枕が置いてあった。黛玉が入ってくるのを見るなり、王夫人は東側の席にかけさせようとしたが、黛玉はそこが賈政の席であるのを察し、部屋の端の四つ並んだ椅子の一つに腰かけようとした。だが、王夫人が幾度も暖房器具に上げようとするので、ようやく王夫人の横に座った。
王夫人はそれを見届けて言った。「舅舅は斎戒に行っています。だからごあいさつは別の日にしましょう。だけど、一つだけお話があるの、さっき会った三姉妹はすごくいい子たちだから、一緒に読み書きをしたり、お針子をしたり、お話をしたりすれば、きっとよくしてくれるはずよ。でも、心配なことがあるの。悪い虫が一匹いるからね。我が家の「混世魔王」といったところかしら。今日はお寺へ願かけに行っているから、まだ帰ってきてないけれど、夜に会えばわかるわ。あの子は相手しなくていいわよ。うちの姉妹たちも取り合いませんからね」
黛玉は王夫人の言葉にいちいちうなずくのだったが、太太が西遊記の敵役である混世魔王になぞらえるなんていったいどんな方かしら? と考えをめぐらし、ようやく亡母から聞いていた話を思い出した。
「舅母がお生みになったお子は玉を口に含んで生まれ、無類のいたずら好き、勉強嫌いで、女の子に混じって遊ぶのが大好き、それでいて外祖母が溺愛されているものだから、すっかりほったらかしにされているそうよ」
黛玉は王夫人が言われているのはその表兄に違いないと思い、笑いながら言った。
「舅母がおっしゃられているのは玉を含んで生まれたという哥哥のことでしょうか? 母がつねづね申しておりました。哥哥は私より一つ年上で、名を宝玉とおっしゃり、たいそうやんちゃだけれど、お姉さま方にはお優しくていらっしゃるとか。私がこちらに来れば、姉妹たちと一緒に過ごすことになるから、お兄様方とは別の住まいになります。どうしてご一緒することができましょう?」
今度は王夫人が笑う。
「あなたは分かってないのよ。宝玉は普通の人とは違うわ。小さい時から老太太が痛いほど可愛がられるので、女きょうだいと一緒にずっと甘やかされてきたんだから。かまわなかったら、あの子も静かにしているでしょう。もし宝玉に一言でも話したりしたら、舞い上がってしまいますからね。だから、けしてかまっちゃだめよ。甘い言葉を吐いたかと思えば、次の瞬間には癇癪を起こしているんだから。あの子には取りあっちゃだめ」




