第十三回 13
熙鳳は慌てて尋ねた。
「おめでたいことっていうのはいったい何なの?」
秦氏は言った。
――天機は軽々しく漏らすものではありません。ただ、わたくしと嬸子さまはよき縁をいただきましたので、別れにあたり二つの詩句を贈りましょう。どうかゆめゆめお忘れなきよう。
そう言うと、低く唱えた。
――『三春去りて後、諸芳尽く
各自須らく各自の門を尋ぬべし』
「……二句ですって? それにそれは……」
なお問いただそうとしたとき、二の門の方から雲板を叩く音が四つ、雷鳴のように響いた。
熙鳳はそれを覚めやらぬままに聞き、思わず顔を覆った。
「東府の蓉の奶奶が亡くなられました!」
熙鳳がそれを聞いたときには、すでに全身に冷汗をかいていた。熙鳳はしばらく呆然としていたが、
「奶奶、太太がお呼びです」
はっ、と背に触れるものを感じ、振り向くと、平児がうつむいたまま紫紺の衣服を垂らしていた。
一門の者はそのことを知ると、誰もが驚き、腑に落ちない思いを抱えていた。
年長の者は、かの人の孝順さを思い、同輩の者はかの人の和やかさと親しみやすさを思い、年少の者はかの人の慈愛を思った。家中の下僕ですらも、かの人が貧しきを憐み、賤しきを見捨てず、老いを労り、幼きを愛したその恩を思い起こし、声をあげて泣かぬ者はなかった。
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情天・情海・幻情の身、
情既に相逢えば、必ず淫を主とす。
漫りに言うなかれ、不肖みな栄より出ずと、
釁を造し端を開くは、実に寧に在り。
(その情は天より海に、幻の情までも身に宿る。
情の行き合えば必ず淫の生ず。
軽々しく言うでない。愚かさはすべて栄府より生じたなどと。
ことの始まりは寧府より)




