第十三回 4
黙が落ちた。
夜の雲が月を隠そうとしている。
先に口を開いたのは女の方だった。
「奶奶にはお見せしておりません」
賈珍は再びたじろいだが、すぐに寧府の主の顔を取り戻し、
「主の文を勝手に開いたのか」
と一喝した。
「あなたさまからの文だと分かりましたから」
瑞珠はこともなげに言った。
「奶奶のお心を痛めるものをお渡しするわけにはいけません」
「……なぜ私からの文だと分かった」
賈珍は目を伏せた。
「爪の跡ですわ」
瑞珠は静かに言った。
「老爺さまは奶奶への文をお書きになるとき、いくら封をなさっても爪跡を残されているのですよ。お気づきではないと思いますが」
「おまえか……。おまえのせいだったのか……」
賈珍は歯ぎしりをする。瑞珠はため息をついた。
「奶奶は病にお倒れになっているのです。真に、真に奶奶のことを思われているのなら……」
「黙れ!」
賈珍は叫んだ。
「私はあれを思えばこそこうやって……」
こつ………、こつ、こつ。
足音が聞こえて、二人はそろって階の方を向いた。
…………こつ、……こつ、……こつ。
わずかに途切れながら音は近づいてくる。
瑞珠は一瞬、逡巡した。誰であれ、今、この場を見られるのはよろしくない。寧府の主を隠すべきかどうか……、それとも己が身を隠すべきか、惑いながら考えていると、ようやく足音の主が階を上がりきり、石壁に体をもたれた。
「奶奶!」
瑞珠は叫んだが、次の瞬間、地にたたきつけられていた。
この丫鬟は朦朧としながら、闇を見つめていた。
男と女、二つの唇が影のまま重なった。




