第十二回 20
道士はそれを賈瑞に渡しながら言った。
「これは太虚玄境よりあらわれた物で空霊殿の警幻仙子がお作りになったものだ。邪な思いや妄念を鎮めるための宝具であり、命さえ救う力がある。そのためこれを現世に持ち出し、とりわけ聡明で才気ある者や風雅を気取る公子たちに見せるための物なのだ。
決して正面を照らしてはならぬぞ。裏じゃ。必ず裏を照らせ。ゆめゆめ怠るなよ。
三日後にまた引き取りに来よう。そのころには、きっとよくなっておるはずだ」
そう言い終えると、道士は立ち去ってしまった。
賈瑞と推何は黙ったまま残した鏡を見つめていた。
「何をしておる! 引き止めんか!」
代儒が怒鳴り声をあげたが、道士はすでに煙のように消えてしまっていた。
「賈瑞さま、そんな怪しげな物はしまっておきましょう。推何は少し休ませていただきます」
推何はそう言うと、奥の房に下がっていった。
だが、賈瑞は鏡を受け取るとこう思った。
「あの道士、なかなか面白いことをいうじゃないか。一つためしに覗いてみるか」
やおら、「風月鑑」を手に取ると、裏面を照らした。
「わっ!」
賈瑞は鏡を放り投げてのけぞる。鏡面には骸骨がこちらに向かって立っていた。
「あの道士め。でたらめを言いやがって。こんなもので人を脅かすとは!」
と罵った。
「……だが、表はどうなっているんだ?」
そう思い、正面を照らしてみると、
そこには熙鳳がこちらを手招くように立っていた。
あまり註はつけたくないのだが紛らわしいので付記する。
本作では現世⇔(道士のいることができる場所)⇔(太虚玄境)⇔(警幻仙姑のいることのできる場所)⇔太虚幻境となっていると考えられ、以前に登場した太虚幻境と太虚玄境は異なる位相にあると思われる。




