第十二回 19
賈瑞の病は良くなるあてもなく、日数が空しく過ぎていった。代儒たちは薬を求めさまよったが、見つかるべくもなく、縋るあても尽きてしまっていた。
それは風の強い日のことだった。東風の音に紛れて、
「冤業の病なら治せるぞ。冤業の病なら治せるぞ」
と呼ばう声が聞こえてくる。
「……推何」
賈瑞は傍らの丫鬟の名を呼んだ。
推何は耳を賈瑞の口もとに近づける。
「……あれを呼んでくれ」
推何は賈瑞の肩に手を触れながら言った。
「あの道士は托鉢のお恵みにあずかりたいのです。病を治すなどただの空言にすぎません」
「……それならなぜ俺の病はよくならない」
「お疲れになっているのですわ」
推何はそうなだめたが、賈瑞は頑として聞かず、
「さっきの道士は冤業を治すと言っていたろう。これだけ病が治らないのは、きっと前生の因縁があるからだ」
「……そんな」
賈瑞は声を張り上げた。
「早く菩薩をお通ししろ! 俺を……俺を救ってくれ!」
そして枕に頭を打ちつけ始めた。樫の枕がにぶい音を立てる。
「……仕方がありませんね」
推何はゆっくりと立ち上がった。
推何に誘われ、道士が姿を現すと、賈瑞は道士の不自由な方の足にすがりつき、何度も叫んだ。
「菩薩よ、どうか私をお救いください」
道士は髭を触りながらため息をついた。
「おまえの病は薬で治るようなものではない」
「……そんな」
推何は絶句する。
「案ずるな。儂が一つ宝具を授けてやる。これを毎日見ていれば命だけはどうにか助かるだろう」
そう言うと、道士は背負っていた嚢から鏡を取り出した。
その鏡面は裏も表も姿を映せるようになっており、柄には「風月宝鑑」と彫ってあった。




