第十二回 18
熙鳳は王夫人のもとへ戻ると、
「申し訳ございません。どうやら新しく調合した分は老太太のお薬に使ってしまっていたようで……」
と王夫人に伝えた。
「たしか残りがあったはずでしょ? それをお持ちしなさい」
「残りは太太が楊提督の太太のお薬としてお贈りしなさいとの言付けをいただいたので……、昨日、お言いつけどおりお届けしてしまったのです」
熙鳳は申し訳なさそうに言う。
「栄府で見つからないのなら、あなたの婆婆のところへ人を遣ってお聞きなさい。それでも見つからなければ、珍の大哥のところでも尋ねたらいいわ」
「……でも」
渋る熙鳳に王夫人はにっこり笑う。
「いいえ。それを飲ませて人を一人助けたなら、それも回りまわってあなたのためになるのよ」
「太太からお届け物にございます」
賈代儒の家に「それ」が届いたのは翌日の夕刻のことだった。
「それ」は縫い取りの飾り箱の中に入っていた。
代儒はそれをうやうやしく受け取ると、急いで厨へ「それ」を運び、妻と二人して蓋を開けた。
「……なんだこれは」
代儒は思わずこぼした。
「ごみばかりではないか!」
そこにはおよそ薬にはならぬような、ひげ根や残りかすばかり、しかもほんの少量入っていた。
「これでは数銭にもなりませんね……」
妻が小さくつぶやく。
代儒は老体に鞭打つように使いを追いかけ、詰問したが、
「これですべてにございます」
という簡潔な答えが返ってきただけだった。
代儒は春泥に膝をついてへたりこんだ。
そのころ栄府では熙鳳が王夫人へこう伝えていた。
「あれこれ探し回って二両ほどお渡ししました」
王夫人は安心したように息をついた。
「それでいい。それでいいの。それでこそ御仏の功徳が得られるのだから」
それから後、王夫人は賈瑞のことを二度と尋ねなかった。




