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紅楼夢  作者: 翡翠
第三回 如海(じょかい)内兄(ないけい)に託し 西賓(せいひん)を薦(すす)め 賈母(かぼ)外孫(がいそん)に接し 孤女(こじょ)を惜(お)しむ
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第3回 6

 言い終わると、円卓えんたくにはお茶とお茶菓子が並べられ、熙鳳は手ずからそれらを賈母おばあさまたちに渡した。

「お給金はきちんと支払ったの?」

 賈政かせいの妻である王夫人がお茶を受け取りながら言った。

「終わっておりますわ。それと先ほど奥のろう緞子どんすを探しに行かせたのですが太太おくさまから昨日言われていたものは見つかりませんでした。もしかしたら太太おくさまのご記憶きおくちがいではないかしら」

「私の記憶違いなんてどうでもいいの」

 と王夫人は言って続けた。

「とにかく、どこのものでもいいから二揃そろいくらい出してきて、林妹妹おじょうさん衣装いしょうを作って差し上げないと。夜になったら誰かに取りにいかせてね」

熙鳳は言った。「それならもうできておりますわ。林妹妹おじょうさまが二三日で到着すると分かっていたので、ちゃんと用意をすませておりました。太太おくさまが帰られて目を通していただいてからと考えていましたの」

 王夫人は納得したように笑って何も言わなかった。

 お茶と菓子が下げられてしまうと、賈母おばあさまは二人の老嬤嬤ばあやに黛玉を二人の伯父のもとへ連れて行くように命じた。すると賈赦かしゃの妻である刑夫人けいふじんがすぐに立ち上がって言った。

姪御めいごさんは私がお連れした方が、ご都合がよろしいのでは?」

 賈母おばあさまは膝を打って笑いながら言った。

「そうだね。それがいい。ついでにあなたも下がりなさい。もう戻ってこなくてよいから」

 刑夫人は「承知しました」と言うと、黛玉を連れて王夫人へあいさつを済ませ、みなは穿堂せんどう垂花門すいかもんの前まで二人を見送った。すると早くも小者たちがみどり色のほろのついた車を引き出していた。刑夫人が黛玉を座らせ、乗りこんだのを確認すると、婆子しようにんたちが簾を下げた。小者たちが担ぎ上げ、広場までたどり着くと騾馬らばをつなぎなおした。西の角門を出、東に栄国府の門を過ぎ、黒門をくぐると、内門の前で二人を降ろした。刑夫人は黛玉の手を引き、庭の中まで進んでいく。黛玉はそろそろ薄暗くなってきた周りを眺めていたが、ようやくそこが栄国府の花園はなぞのであることに気づいた。果たして三つ目の門をくぐると、正房おもや廂房わきべや遊廊かいろうにいたるまでひどく手がこんだ造りになっていて、先ほど見た屋敷の荘厳そうごんさとはまたおもむきことにおり、樹木や大石がほどよくあしらわれている。

 正房おもやに入ると着飾った大勢の側室そくしつ侍女じじょが出迎えてくれた。刑夫人は黛玉を椅子に座らせ、その間に賈赦かしゃ書斎しょさいへ使いの車を走らせた。使いの者が戻ってくると、

老爺だんなさまから私は日々体の具合が悪く、黛玉あなたもご傷心しょうしんだろうからしばらくは会わぬがよかろう。くれぐれも家を恋しがり、想い悲しむことの無きよう。老太太おばあさま舅母おばさまと一緒にいればこきょうにいるのと同じ。こちらの姉妹しんせきは足りないものばかりだが、一緒に過ごせば気分も晴れるだろう。遠慮はなさらず。何でも言ってくだされ、とのことでした」と言伝ことづてがあった。

 黛玉は急いで立ち上がり、一つ一つかしこまって聞いた。それから再び座りなおし、刑夫人と談笑だんしょうした後、夕餉ゆうげを食べていくよう勧められたが、

舅母おばさまとご同席どうせきさせていただくのは非常にありがたいのですが、私はまだ二の舅舅おじ賈政舅舅おじのところへ向かわなければなりません。お食事をいただいてから、うかがうのでは失礼にあたりましょう。また他日たじつ、ご相伴しょうばんできればと思います」

 と笑いながら言った。刑夫人は、

「それもそうね」とつぶやくと二人の嬤嬤めしつかいに送らせ、自身も内門のところまで送っていき、一言二言言いつけをし、車が見えなくなるまで見送った。その車が暗闇に紛れて見えなくなったころ、黛玉のそつのなさと細やかさをあらためて思い出し、感心すると同時に、「妹妹あのこは大丈夫かしら」とひとりごちた。


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