第十二回 13
それを聞いた賈瑞は魂が抜けんばかりに取り乱し、
「頼む。おまえだって俺の甥っ子だろ? 見なかったことにしてくれ」
すると賈薔は言った。
「そこまで言うなら見逃してやらんでもない。だが、多少の礼ぐらいはいただかんとな」
賈瑞は小さくうなずく。
「それも口約束じゃあてにならん。証文を書いてもらおう」
賈瑞はうめくように言った。
「どう書けばいい……」
「なぁに簡単だ。博打で大負けして、銀子を元締めから借りた、とでもしておけばいいさ」
賈瑞はうつむきながら言った。
「だが、ここには紙も筆もないし……」
賈薔は、くるりと背を向け、紙と硯、筆を取りだした。
「ほら、これで障りはないだろう?」
「書けよ」
賈薔が詰め寄る。
「うん。だが、いや、しかし……」
「瑞大叔さん、おとなしく従っておいた方がいいですよ」
賈蓉はたおやかに賈瑞の手を取り、筆を握らせた。たどたどしく賈瑞の手が動いていく。
「そう、いいですよ。それから額面は五十両としてください」
「そこに花押を据えるんだ」
賈薔がどすのきいた声で言った。賈瑞が汗を流しながら書き終えると、
「よし」
と言って賈薔はそれを懐にしまいこむ。賈瑞は深くため息をついた。
「瑞大叔さん、終わりじゃありません。今度はこっちの番ですよ」
「なんだと! まだ金を取るつもりか!」
賈瑞は賈蓉を睨む。
「夜明けが来たら、一族の大爺さま方にじっくり是非を糺してもらおう」
賈蓉は不敵に笑った。そこで賈瑞は叩頭し、
「それはやめてくれ。どうか……、どうか助けてくれ!」
「それなら、あと五十両」
賈薔が刺すように言った。
「……そんな」
「五十両」
賈瑞は賈薔の圧に抗いきれずもう一度筆を取った。
「ほら、持っていけ!」
証文が音もたてずに暗闇へ落ちていった。




