第十二回 9
それから二日ほど経った夕べのことだった。
「瑞の大爺さまがお越しです」
そう取り次がれたとき、平児はさすがに笑うほかなかった。
「あれほどの目に遭わされたのにまだ来るとは……。どこまでも懲りないこと!」
「奶奶にお会いしたいとのことでしたが……」
取り次ぎがおずおずと言うと、
「そのまま待たせておきなさい」
と突っぱねた。平児はそのまま考えていたが、
「奶奶にはどうお伝えしましょう?」
と豊児が尋ねると、
「私からお伝えするわ。あなたはここに控えていなさい」
ひりついた平児の様子にしり込みしながら、豊児はうなずいた。
「“あれ”が来られました」
平児は厳かに告げた。
「……そう」
平児は怒り猛るとばかり思っていた主の声が、わずかに震えていたのを見逃さなかった。
「かくなる上は、璉さまにお伝えしては」
「あの人に今、そんな暇はないわ」
熙鳳はつぶやいた。
「林の姑娘の父君がご危篤らしいの。あの人は姑娘を連れ、近く揚州へ向かうそうよ」
「それならなおのこと、今!」
「今、あの人に伝えたらあの人はどう思うかしら? なぜ初めから言わなかったと私を責めるかもしれない。あるいは私を疑うかも……」
熙鳳はため息をついた。
「それならばとりあえず追い返しますか?」
熙鳳は首を振った。
「そのままにしておいてはだめ。寧府のありさまをみたでしょう? あの人のいない間隙をついて忍ばれたら、誰かのようになってしまうかもしれない」
平児は咳払いをして言った。
「奶奶はあの方ではありません。奶奶ならば……、いつもの奶奶ならばいかがなさるでしょう」
平児が励ますように言うと、熙鳳はゆっくりと首を振り、そのまま前を向いた。
「そうね。そうよ。『先んずれば人を制す』と言うじゃない」
平児は笑った。
「それでこそ、奶奶ですわ。この平児に何なりとお申し付けください」




