第十二回 3
そこで賈瑞はようやく余裕をもって笑みを浮かべることができた。
「私は毎日ひまですから。嫂子の倦んだ思いを晴らして差し上げます。……幾日でも」
熙鳳は鼻で笑いながら言った。
「そんなこと言って。そんな都合よく私のところになんて来るもんですか」
賈瑞はまくしたてた。
「嫂子の前で少しでも嘘をついたら天罰でも雷光でも受けましょう!」
賈瑞はじっと熙鳳を見つめる。
「……これまで嫂子はひどく厳しいお方で、嫂子の前では少しの過ちも許されないと聞いておりました。それで私はどうしても気後れしていたのです」
賈瑞に笑みがこぼれた。そして、うつむきながら、熱を込め、こう述べた。
「ですがこうして今日お会いしてみると、嫂子はやはり気さくで、笑顔で接してくださり、情に厚いお方だということが分かりました」
顔を上げると熙鳳にも笑みが浮かんでいた。それで賈瑞も笑顔を作ると、麗人は瞬く間に真顔へと変わった。
「嫂子……?」
賈瑞は一瞬、言葉に詰まってしまう。王熙鳳は再び笑って言った。
「なるほど、さすがにあなたは話が分かるわ。蓉ちゃんたちみたいに察しが悪くないもの。あの子たちはあんなにきれいな顔をしているから、さぞかし私の気持ちも分かっていると思ったのに。中身はとんだ間抜けなんだもの」
★★ ★
ここで王熙鳳が目くばせをした。
平児は豊児の隠れている幕の後ろへと退がる。
「奶奶は役者をやられてもきっと名優におなりですね」
豊児が弾むように平児へささやく。
「耳をふさぎなさいと言ったでしょう!」
平児は小声でたしなめる。そしてじっくりと考えこむようにつぶやいた。
「本当? 本当にそうかしら。どこからどこまで演じられていたのか……」
暗がりのなかで二人はそのまま黙りこんでしまった。




