表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第十二回 王熙鳳 毒(あくど)き相思(そうし)の局(きょく)を設(もう)け 賈天祥 正(ただ)しく風月(ふうげつ)の鑑(かがみ)を照(て)らす
198/240

第十二回 2

 賈瑞のむね高鳴たかなっていた。

 ややもすれば熙鳳の夫である賈璉と鉢合はちあわせるかもしれない。小心しょうしんな彼は熙鳳の上房きょしつの前に立ったとき、そのことばかりを考えていた。眼前がんぜんの入り口を前にして、賈瑞は奇妙きみょう昂揚感こうようかん不安ふあんとが入りじりながら、ぼうのように硬直こうちょくした。

「おはいりください」

 もう一度丫鬟いちどじじょが言った。

 おもい足をひきずるようにして中へいざなわれる。

姐姐おねえさま……」

 つい、そうつぶやいてしまった。正面しょうめんの王熙鳳は寧府で見かけたときとは見違みちがえたように着飾きかざり、化粧けわいし、やわらかく微笑ほほえんでいた。

「瑞さま、お茶をおみになって」

 つぼみのごときくちびるがゆっくりとひらき、えもいわれぬただよってくる。

 ――天女てんにょか。

 と思い、口をあんぐりと開けたままくす。

――いけない、わらわなければ。

かたまってしまったほほ無理むりやりにあげ、笑顔えがおをつくる。

「ご機嫌きげんよう。ご機嫌きげんよう。ご機嫌きげんよう」

 何度なんど何度なんど挨拶あいさつをした。

 言ってしまって、ようやくのぼせあがった頭が冷静れいせいになる。

「二のにいさまはまだおかえりではないのですか?」

 熙鳳のまゆがややり上がった。

「さあ、どうしたのかしら」

 賈瑞はその口調くちょうに怒りの気配けはいを感じた。おののきながらも、

「み、みちだれかにびとめられてかえるのがしくなったんじゃないですかね」

 いちばちかそう軽口かるくちをたたいてみる。

「そうかもしれないわね。男なんてのは、だれかを見ればきになるものだし」

 そううらむような声で言うのに、賈瑞にひらめくものがあった。

嫂子おばさま、私だけ……、私だけはそんな人間にんげんじゃありません!」

 そこでようやく相手あいてに笑みがこぼれた。

「あなたみたいな人、十人に一人もいるものじゃないわ。なんて殿方とのがたなの」

 賈瑞はしてやったりと思い、うれしくてたまらず、耳をかき、頭をかきむしりながら言った。

嫂子おばさまもさぞ退屈たいくつでしょう」

 熙鳳はいきをつきながら言った。

本当ほんとうに。誰かさんが来て、話でも聞かせてくれたら気がまぎれるのだけれど」

 そう言う熙鳳の目はたしかに賈瑞を射抜いぬいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ