表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第三回 如海(じょかい)内兄(ないけい)に託し 西賓(せいひん)を薦(すす)め 賈母(かぼ)外孫(がいそん)に接し 孤女(こじょ)を惜(お)しむ
18/134

第三回 3

 黛玉を乗せたかごはきらびやかな正門を通り過ぎ、角門かどもんから入っていく。轎引かごひきたちは轎を担いだまま、きっちり一矢の届く距離だけ、百歩ほどを進む。角まで来るとそのまま轎を降ろした。後方にいたはずの婆子しようにんたちもいつの間にか先に轎から降りていた。と思えば、すぐに十七八歳の小者がやってきて新たに轎をかついでいく。婆子しようにんたちも後に続いた。瞬きするほどの鮮やかな色彩の垂花門の前まで来ると、小者たちは静かに轎を降ろし、婆子がゆっくりと轎の簾をあげた。

 黛玉は婆子しようにんに手を取られながら、半円型の垂花門を進んでいく。両側は抄手回廊しょうしゅかいろうの造りになっており、正面には穿堂せんどうが建てられ、床には紫檀したんの台に置かれた大理石の挿屛ついたて。そこを回ると三間さんまにもおよぶ広間があり、広間を抜けるとそこが正房おもや大院なかにわになっていた。正面の五間ごけんもの正房おもやはり棟木むなぎ彫刻ちょうこくほどこされ、風通しのよい穿山遊廊せんざんゆうろうがある両側の部屋には鸚鵡おうむやツグミのかごがかけられていた。

 黛玉は屋敷のきらびやかさ、もてなしの仰々(ぎょうぎょう)しさにまたも胃が痛んできて、林家りんけから連れ添ってきた乳母の手を誰にも見えないようにそっと握った。

 そんな黛玉の緊張を感じ取ったのか、入り口の石段で出迎えてくれた美しく着飾った侍女たちも柔和にゅうわに笑いかけてくれた。

「大奥さまもずっとお嬢さまのことをお待ちかねでしたよ」

 我先にと侍女たちが垂れ幕をあげると、「林お嬢さまがお着きです」という声が中から聞こえる。

 部屋に入ると両脇を支えられた銀髪の女性が出迎えた。黛玉はすぐにそれが外祖母おばあさまであることに気づいた。拝礼はいれいをしようと身をかがめると、その間もなくきつく抱きしめられた。「ああ、愛しき我が子!」と叫ぶなり、大声で泣いた。周りの人々も、そして黛玉自身も祖母とは初めて会ったはずなのに涙があふれて止まらなかった。人々になだめられ、ようやく落ち着くと黛玉はあらためて拝礼をした。

 賈母おばあさまは「これは上のおばさま。これは二のおばさま。そして亡くなった珠兄さまのお嫁さんだよ」と指さして教える。黛玉は都度つど人々に拝礼し、それが終わってしまうと賈母おばあさまは叫んだ。

 「うちの嬢ちゃんたちを呼んでおいで! 今日は大切なお客さまがおいでだから、勉強はいい、とね」

 すぐさま返事が聞こえ、二人が連れだって呼びにいく。

 しばらくして三人の乳母うばと五六人の年若い侍女が三姉妹を取り囲むようにやってきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ