第八回 18
翌日、宝玉が目を醒ますと、誰かの声が聞こえた。
「蓉の大爺が秦の相公とご挨拶に見えました」
宝玉は慌てて飛び起きると、衣服を着替え、賈母のもとへ賈蓉と秦鐘を案内した。
「賈母、この方が先日から申し上げていた秦の御子息です」
そう恭しく宝玉が言うと、賈母は笑みを浮かべて言った。
「ええ、よく知っておりますとも、寧府の芝居のときにお見かけしましたよ」
そう言いながら、すぐさまお茶と食事の用意をし、賈蓉と秦鐘にふるまった。
そのうえで王夫人にも引き合わせ、彼らのいないところで王夫人へこうささやいた。
「ご覧、あの子の美しいこと! それに振る舞いも落ち着いているだろう。あの子が宝玉と並んで書を読めば、きっと宝玉の学問も振るうはずだよ」
王夫人は賈母の言葉にただうなずき、秦鐘たちを見送った。
栄国府の人々は、もとよりあの秦の奶奶のことを愛おしく思っていたし、また秦鐘の品の良さを見るにおよび、こぞって贈り物を渡した。
「それじゃあ、これは私から」
賈母はそう言うと、荷包と金の魁星像を渡し、「文星和合」の意を込めた。
それらを渡したのち、賈母は優しく秦鐘へ告げる。
「あなたの邸ははるか遠くにあり、家塾への行き帰りでいろいろと困ることもあるでしょう。暑さ寒さをしのぐとき、ひもじい思いをしたとき、遠慮なくここを使いなさい。いついつまでと定めも設けないから」
秦鐘が礼を述べようとするまえに、賈母は続けた。
「ただし、宝叔父のそばへ必ずいるように。そこには勉学をしているにも関わらず、進歩のない者もおりますから」
秦鐘はそれにいちいちうなずいて答え、賈府を辞去すると父の秦業へ報告した。
「おお、そうか。老祖宗がそのような申し出を」
秦業は年老いた顔をほころばせて、秦鐘を出迎えた。そのまま荷包、金の魁星像としげしげと見やり、古希へ近づき、ようやく長年の宿願が果たされようとしているのを感じるのだった。