表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第八回 通霊に比(なら)べ金鶯(きんおう)微(かす)かに意を露(あら)わし、 宝釵を探り、黛玉半(なか)ば酸(す)を含(ふく)む。
122/134

第八回 17

 そのときまでの襲人は丫鬟じじょとしての自分じぶんと、女としての自分との間で葛藤かっとうしていた。

 晴雯の手をにぎったことも、黛玉にびるような言い方をしたことも、自分を軽く扱われたことにも少なからず苛立いらだっていたのだが、筆頭丫鬟じじょである彼女としては表立おもてだって不満ふまんを言うわけにもいかない。

 せめて宝玉をらしてやろうとずっとたふりをしていたが、宝玉が茜雪の裙子スカートにお茶をぶちまけ、李ばあやをい出すとまで言い出したので、丫鬟じじょとしての自分を無理むりやりたたきこして、宝玉をなだめたのだった。

茜雪あのこかんがえがあってやったことですわ。どうか私にめんじておゆるしください」

 他の者ならいざしらず、襲人のことなら言うことを聞く宝玉だったが、このときばかりはかえってあばれだす始末しまつで、さすがの襲人も途方とほうれてしまい、だまって見ているよりほかなかった。

 すると、急にへやの戸がき、賈母おばあさま使つかいが飛びこんできた。

「さきほど大きな音がしたが、何があったのかとおおせです」

 襲人はあわてて言った。

「たった今お茶をれたのですが、雪で足をすべらせてころんでしまい、うっかり茶碗ちゃわんってしまったのです。きっとそのおとですわ。祖宗そそうには夜分やぶん大変たいへん迷惑めいわくをおかけしたとお伝えください」

 そう丁重ていちょう返答へんとうをし、使つかいが戻ったのを見届みとどけると、襲人は皮肉交ひにくまじりに言った。

「あなたが本気ほんきで李ばあやをい出そうとされているのなら、私たちにも覚悟かくごがございます。良い機会きかいです。みんなまとめて追い出してください。私たちもせいせいしますし、あなた様も今よりずっとできのよい者が見つかるでしょうから」

 宝玉はそれを聞くと言葉を無くしてしまい、襲人たちにきかかえられるようにして寝台しんだいへたどりくと衣服いふく着替きがえた。

「……ん」

 宝玉がもつれるしたで言う。

「どうかなされました?」

 襲人が聞きなおすと、

「ご……め……ん」

 とうわ言のように言うので、襲人は、

「なんてずるい人」

 と一言つぶやき、宝玉の首から通霊宝玉つうれいほうぎょくはずると、自分の手巾ハンカチつつみこみ、褥子しきぶとんの下にしまいこんだ。こうすれば朝起あさおきて宝玉が身につけてもつめたくない。いつもの襲人の習慣しゅうかんだった。

 そのときには李ばあやたちがへやのなかに入ってきており、宝玉の様子をりたがったが、襲人は、

「もうそっとしておいてください。まだどんな気を起こすかしれませんから」

 と言って追い返した。彼女たちが見えなくなると、

今夜初こんやはじめてあなたをねたましく思ったわ」

 とひとりごちた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ