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紅楼夢  作者: 翡翠
第八回 通霊に比(なら)べ金鶯(きんおう)微(かす)かに意を露(あら)わし、 宝釵を探り、黛玉半(なか)ば酸(す)を含(ふく)む。
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第八回 12

 薛のおばさまが言った。

こわがらないで。怖がらないで。大丈夫よ、ぼうや。うちでは大した御馳走ごちそうも出せないんだから、そんなちょっとしたこと気にまないで。かえって私がかないわ。安心あんしんしてお食べ。おばさんがついているんだから、いっそ夕飯まで食べていきなさい。ったらそのまま、私のところでねんねすればいいのよ」

 言い終えると、そのままめいじた。

「もう一度お酒を温めてきて。おばさんとお酒を二杯にはい飲んでから、夕飯にしましょうね」

 宝玉はそれを聞くとようやく気分が乗ってきた。


 李ばあやは小丫頭子むすめたちに言いつけた。

「おまえたちはここで気をつけておつかえしていなさい。私は家にもどって着替きがえてきますから。そのあいだ、薛のおばさまにそっともうし上げて、あの子が勝手かってにおさけまないようにしておくれ」

 そう言ってって行ったが、やしき門子ドアをくぐってしまうと、思わずなみだがあふれてきた。

「李の姐姐おねえさま、どうされたのですか?」

 丫鬟じじょ嬤嬤ばあやたちがたちまちってくる。

「あの子ったら、薛の姑娘おじょうさまや林の姑娘おじょうさまにすりって、私の忠告ちゅうこくなど聞きもせずに酒をあおるばかり。ちちをあげたのが誰だ(だれ)ったのかわすれてしまったんだろうねぇ」

 さめざめとく李ばあやに、丫鬟じじょたちは口々に言った。

「李の姐姐おねえさまも宝玉さまのようにお酒をまれればよいではありませんか。すこしはむねのつかえもおりましょう」

 李ばあやははげしく首をよこる。

「私がお酒をんでしまったら、あの子がどう思うか考えてごらん。気に入らないことがあったらいつでもお酒を飲んでいいと勘違かんちがいするでしょう。私は向こうにもどらなければなりません。私の顔がちょっとでも赤くなっているのが分かったら、それまでだわ」

 李ばあやはしばらくの間、こえをあげていていたが、卓子テーブルのこった茶碗ちゃわんを見ると、不意ふいみ、こう言った。

「そうだ。今朝けさ、あの子も楓露茶ふうろちゃんでいたじゃないか。あれをみたい。ませておくれ!」

 まわりにひかえていた丫鬟じじょたちは、宝玉が楓露茶ふうろちゃを夕方にも飲みたがっていたことを知っていたので、戸惑とまどうばかりで誰も楓露茶ふうろちゃれようとはしない。

「何だい。これまで栄府えいふくしてきたのに、誰も私にお茶一つれてくれないのか」

 そう李ばあやが悪態あくたいをついていると茜雪せんせつすすみ出て、

姐姐おねえさま、私がおれしますわ」

 と言った。とたんに丫鬟じじょたちはざわめきだし、茜雪に「おやめなさい」とか「あなたは朝にはいなかったからごぞんじないのよ」と口々にさとしたが、茜雪は何も言わず、窓の下の戸棚とだなから茶筒ちゃずつを取り出した。

襲人姐姐しゅうじんおねえさま!」

 丫鬟じじょたちは筆頭丫鬟ひっとうじじょである襲人に助けを求めたが、襲人ももくして何も言わなかった。

茜雪は急須きゅうすに残っていた茶葉ちゃばててから、新たな茶葉ちゃばをおひたした。雪のりるしずけさのなか彼女の所作しょさかなでる音だけが小さなへやひびいていた。

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