表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第八回 通霊に比(なら)べ金鶯(きんおう)微(かす)かに意を露(あら)わし、 宝釵を探り、黛玉半(なか)ば酸(す)を含(ふく)む。
116/134

第八回 11

 薛のおばさまが言った。

「あなたって子は身体からだよわいんだから、身体を冷やすのは良くないでしょう? それをみんなが気遣きづかう気持ちが分からないの?」

 黛玉は笑って答えた。

「おばさまは私がなぜあのようなもの言いをしたのか、ごぞんじないのです。幸いおやさしいおばさまのおたくだから良かったものの、もし他家たけで同じようなことをしたらお相手はどう思われるでしょう? 『あそこの家には手あぶり一つないと思ったから、わざわざ自分の家から持ってきたのね』と受け取られかねません。そうなれば、うちの丫鬟じじょたちはずいぶん気を回しすぎ、黛玉わたしはわがまま放題ほうだいの娘だと思われてしまいますわ」

 薛のおばさまは笑いながら言った。

「あなたったらそこまで考えちゃうのね。私はこれっぽっちも気にしていないわ」


 そんな話をしている間にも、宝玉はもう三杯も酒を飲んでいた。

「いけない子! いくらなんでも飲みすぎですよ」

 そう言う李ばあやに、黛玉や宝釵と楽しんでいる宝玉がやすやすとうなずくはずがない。宝玉は下手したてにでながら懇願こんがんした。

乳母かあさま! お願い。あと二杯で終わりにするから!」

 李ばあやは言った。

「もっと気をつけないと! 今日はお父さまが家にいるから勉強のことをおたずねになるかもしれませんよ」

 この言葉を聞いて、宝玉ははいを置き、うつむいた。すかさず黛玉が言う。

きょうを削ぐようなことを言ってはだめよ。舅舅おじさまに呼ばれたら、おばさまに引き止められていたって言えばいいじゃない。この『お母さん』はこの人がお酒を飲むと、私たちまでつかまえてお小言こごとを言うんだから」

 そう言いながら、宝玉をそっとひじでつつき、けしかけながら耳もとでささやいた。

「あんないぼれほうっておいて、私たちは私たちで楽しみましょう」

 李ばあやは黛玉の気持ちに気づかずこう言った。

「林の娘さん、あんまり肩を持たないで、むしろたしなめてください。あなたのおっしゃることなら、あの子も少しは聞くかもしれないから」

 黛玉は冷笑れいしょうして言った。

「誰が肩なんか持つものですか。それに私がたしなめる筋合すじあいもないわ」

 そう言いてると、さらに続けた。

「だいたい『お母さま』こそ気を回しすぎよ。ふだん老太太おばあさまだってたっぷりお酒を飲ませているじゃない。おばさまのお宅でほんのちょっとお酒を飲むくらいつかえないはずよ」

「そんな……」

 李ばあやが言いよどむのにもかまわず、

「まさか薛のおばさまをよそ者だと思って、ここでお酒を飲むのは無作法ぶさほうなどと考えておられるわけではないでしょうね」

 李ばあやはそれを聞いて、あきれ半分、おかしさ半分で言った。

「まったく林の娘さんときたら、口から出る言葉が刃物はもののようにするどいんだから」

 宝釵もこらえきれず笑いながら、黛玉のほほをつまみ、こう言った。

「まったくこのしかむすめときたら、憎たらしいやら、可愛らしいやら」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ