表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第八回 通霊に比(なら)べ金鶯(きんおう)微(かす)かに意を露(あら)わし、 宝釵を探り、黛玉半(なか)ば酸(す)を含(ふく)む。
110/134

第八回 5

 宝玉が梨香院へやってきて、薛のおばさまのへやに入ると、薛のおばさまが丫鬟じじょたちに針仕事はりしごと指示しじを出し、役割やくわりっているところだった。

 宝玉があわててご機嫌きげんをうかがうと、薛のおばさまは宝玉をさっとせ、むねきしめながら言った。

「まあ、こんな寒い日によくぞ思い出してきてくれたこと! おちびちゃん。さあ、早くこうにお座り」

 そう言うと、丫鬟じじょに温かいお茶を持ってくるようめいじた。

 宝玉がお茶を飲みながら、

哥哥おにいさんはいらっしゃらないのですか?」

 と聞くと、薛のおばさまは深くため息をつきながら、

「聞いておくれ。薛蟠ときたらまるでひものついていない馬のように、日がな走り回ってばかり。一日だって家にじっとしているときはないんだよ!」

 宝玉は苦笑くしょうしつつ、

姐姐おねえさまはお元気げんきにされていますか?」

 と聞いた。薛のおばさまは身をしながら、

「そうそう、ついこの前もわざわざ人をお見舞みまいにこしてくれたね。あの子はおくにいないかしら? ちょっと見てきなさい。あっちの方がここよりもずっとあたたかいわよ。そこにすわっていたら、私も片づけを済ませてそちらに行くから」

 と言った。

 

 宝玉はそれを聞くとさっそくこうを下りて、おくの入り口まで行った。そこにはやや古びた紅絹べにぎぬやわらかいとばりがかかっていた。宝玉はそれをめくって一歩いっぽなかにみ入った。

 目に入ったのはこうの上に座って裁縫さいほうをしている薛宝釵の姿すがただった。

漆黒しっこくかみはつやつやと鬢児びんじい、蜜合あめ色の綿わたあわせ濃淡のうたん玫瑰紫ばらむらさき金銀二色きんぎんにしょくった袖無そでなし、葱黄ねぎきいろあやられためんスカートけていたが、その色調しきちょうととのい、着慣きなれてはいても、ほつれの一つもなく、はなやかさも適度てきどおさえられていた。

 くちびるべにをささずともあかく、まゆえがかずともあおく、そのかんばせぎんぼんのようにりんととのい、まなこれかけの水杏すいきょうのようにうるんでいた。

宝釵は宝玉が入ってきたのにも気づかず、湖面こめんの水のようにしずかに、一糸いっしみだれもなく、裁縫さいほうを続けていた。

 宝玉は宝釵がめったに口を開かず、口数が少ないために「おろかさをかくしている」とあげつらわれたさい、ただにっこりと笑って、「ええ。そのとおりです。私はおろかなので、分をわきまえ、ときしたがうよりありません。つたなさをまもるのが精一杯せいいっぱいですわ」と言ったのを思い出していた。


鬢児……古代中国の女性の髪型の一種。頭の後ろや側頭部で髪を団子状に巻いて結い上げるスタイルで、特に日常生活や非正式な場面で広く用いられた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ