第七回 19
「俺は今からでも祠堂に行き、寧国公の霊前で哭いてやる! まさか今になってこんな畜生どもが生まれるとは思わなかった。
いつもいつも犬を盗んで鶏と戯れるばかり、灰の上を這うやつは灰の上を這ってるしよう、叔父っ子の嫁は甥とよろしくやってる、ってありさまだ。
俺さまが何も知らないと思っているんだろう! 『腕が折れたら袖に引っ込める』なんでも隠そうとする寧府のやり方はよく知ってるぜ」
賈蓉のすぐそばに控えていた下人は青ざめた。犬を盗む、鶏と戯れるというのは乱倫のこと。それだけでも血の気が引くくらいなのに、灰の上を這うとは……。
膝は媳に音が通ずる。灰の上を這うと膝が汚れる。つまり息子の嫁を汚すという意味である。
下人が主の顔をちらりと見やると、その表情はひどく強張っていた。下人は目を合わさぬようじっとうつむいたままでいた。
一方賈蓉は「灰の上を這う」という意味は分からなかったものの、叔父っ子の嫁は甥とよろしくやっている、というのは、昨晩の熙鳳との密会を焦大が勘違いしたのだろうと気づいた。
だが、それについて弁明しようとすると、実父である賈珍と秦氏との密通の疑惑についても言及しなくてはならなくなる。そのため、賈蓉は押し黙ったまま事の成り行きを見守るしかなかった。
これを聞いた男たちは焦大のとんでもない暴露に魂魄が消し飛ぶほどに驚き、後のことなどお構いなしに焦大を縛り上げ、口の中いっぱいに土と馬糞を詰め込んだ。
熙鳳はこの惨状を見せるに忍びなく、宝玉の顔を袖で隠そうとしたが、宝玉はかえって嬉々として、その袖の合間から覗き見ようとしてやめない。
「ねぇ、姐姐。灰の上を這うってどういう意味?」
熙鳳は眉を上げ、目をいからせて言った。
「馬鹿なこというんじゃないの! あんなの酔っ払いのたわごとなんだから。よしんば気になったとしても、あんたみたいな子どもは知らないふりをしておけばいいの。帰ったら太太にお伝えしてひどい目に合わせてやるから」
宝玉は慌てて懇願する。
「姐姐、もう二度と言いませんから!」
熙鳳はため息をつく。
「ようやくいい子になったわね。 よろしい。帰ったら老太太にお伝えして、あんたを秦の甥っ子と一緒に勉強できるようにしてあげる」
そう言いながら熙鳳は車を栄国府の方へ戻らせた。