第七回 15
「父も先日このことを話しておりまして、ちょうどこちらの義学がよいと聞き、こちらの親戚に相談申し上げ、口添えをお頼みしようと思っていたのですが……」
「それなら早く言ってくれれば良かったのに!」
宝玉は身を乗り出す。
「栄府もお忙しそうなので、私の入塾などという小さなことで騒がしてはいけないと思っていたのです。ですが、もし小侄を可愛がってくださるのなら、墨をすったり、硯を洗ったりする間にでも、話を進めていただけませんか? そうすれば宝叔のおっしゃるとおり、学問を怠けることもなく、親を安心させられて、友人として語り合うこともできますから」
宝玉は笑いながら言った。
「安心して。任せてよ。ぼくが戻ったら、璉の義兄さまや君の姐姐、二の嫂子にも話しておくからね。君はご尊父にお話をしてみて」
「は、はい」
秦鐘はうち震えながら返事をする。
「そうそう祖母にも話を通しておかなくちゃ。そこまですれば、すぐに話はまとまるはずだよ」
二人は目を合わせて笑いあうと、どちらからともなくお茶をすすった。
そのころには、下人が火を灯しに来、再び骨牌の音が聞こえてきた。
「ぼくたちもちょっと見に行ってみようよ」
宝玉が秦鐘にささやく。
「あー、負けた。負けた。きょうはあんた、ばかについてたわね」
尤氏が牌を放り投げる。
「ここの宴はあなたたちが費用を持ってね。次回のもよ」
熙鳳がにっこり笑うと、秦氏は苦笑しながら言う。
「とりあえずお食事にしましょうか」
食事が終わってしまうと日はすっかり暮れてしまっていた。尤氏は窓を見ながら言った。
「早く誰か二人ほど遣らせて秦のぼっちゃんをお送りしなさい」
尤氏の言いつけがあったあと、外は小人たちの雑言でざわめいていた。
「俺はあんなガキを送るのはごめんだぜ」
「俺も俺も、あんなやつを送って行っても一文にもならねえしよ」
「おまえが行けよ」
「いや、おまえこそ行けよ」
秦鐘の押し付け合いが極限に達したころ、尤氏の言葉を伝えにきた丫鬟が思い出したように言った。
「そういえば今朝、焦大の爺さんが俺に仕事をくれとわめいていたわ」
うす暗い焦大の寓居へ一人の男がのそりと顔を出した。
「おい、爺さん。お待ちかねの仕事だぜ。そんなところでぼうっとしてないで出てこいよ」
焦大はじろりと暗がりを睨むと懐から竹筒を取り出し、一気に飲みほした。