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夏2

その日の特別授業も無事に終わった。

終わったら、早く帰ればいいのに、もう少しだけ山田といたくて自習を理由に教室に残っている。

静かに勉強したい子達は図書室に移動し、基本的に解放されている教室は少し賑やかだったりする。

「夏休み中なんだから、早く遊びにいけー」という先生も多いが、何分高校生のお財布事情はシビアだ。


「俺、今度の土曜、海に行くんだー!」


山田はキラキラと瞳を輝かせて持ってきていたらしい雑誌を開きながら楽しそうに話し始めた。


「そうか」


ユキくんは、チラリと山田を軽く見てから返事をして、小説に視線を戻す。


「……もっと、盛り上がってくれてもよくねぇ?」

「……この暑い中、人だらけの海行って迷子になるなよ。迎えに行けないからな」

「いやいや、俺は子どもか!ちっがうだろ!もっとこう!「夏の海!夏の空!いいじゃーん!俺も行きたい!」「残念でしたー!彼女と行くんですー!」みたいな会話したいんだよ!」

「ナツノウミーナツノソラーイイジャーンオレモイキターイ。これでいいか」

「求めてたのと違う!」

「フフッ……」


2人の会話に堪えきれず、笑ってしまった。

そして、「彼女と海に行くのか」と心に影も落ちた。


「そういえば、いつも俺の話聞いてもらってばっかりだけど、ゆうちゃんは?夏休みどっか行かないの?」


その質問に今まで微塵も興味もたれてなかったのかと自己嫌悪に陥りかけたけど、笑愛ちゃんとのお祭りに行く予定を思い出してなんとか気持ちを保つ。


「私は、笑愛ちゃんとお祭りに行くくらいかな」

「お!祭りって今度神社でやるやつ?」

「うん。花火も上がるし、1学期頑張ったお祝いにいいねって」


笑愛ちゃんが彼氏さんに受験だからって断られたけど、お祭りは行きたいと力説していたので一緒に行くことになった。

浴衣も着ようという話になって、先日一緒に買いに行ってきたばかりだ。

実は、例年夏休み中は祖父母の家で過ごしてきたから、家族以外とのお祭りは初めてだったりする。

すごく楽しみで今から待ち遠しい。


「それ、俺も一緒に行っていい?」

「あ、ユキくんのこと誘おうかって笑愛ちゃんと話してたの。だけど……約束してるかもと思ってなかなか言い出せなくて」

「そうなんだ。早く言ってくれれば良かったのに」

「そうだね」


笑顔で返しつつ、ユキくんの笑愛ちゃんへの想いに気づいてしまったので誘いづらかったという理由は絶対に言えないと思っていると、「じゃぁ何時にどこに集合なの?」とユキくんに質問をされた。

それに答えようとした時に山田の声がそれを遮る。


「なんで、俺は誘われないの?」

「え?」

「だから!なんで、俺のことは誘ってくれないの?」


少し不服そうな山田の発言に思考が止まりかけた。

「彼女もちの人をこういうのに誘ってもいいのだろうか?」とか「どうせ聞いたところで彼女と行くと断られるだけでは?」とか考えが巡る。

山田の問いに答えられずにいるとユキくんがため息まじりに「どうせ、一舞は彼女と行くって答えるだろ?」と代わりに答えてくれた。


「い!行くけど!」


山田は面食らったようにそれに答え、「彼女に俺の友達紹介したいんだよ!」と少し照れくさそうに頬をかきながら言葉を足した。


「友達」自分でも納得した立ち位置のはずなのに心が軋むのを感じる。

今ではこの言葉がとても重い。

これが、本当にただの友達だったら、今の言葉は嬉しく感じるのだろうか。


「初めての祭りデートで友達誘ってどうすんだよ。俺、付き合った相手にそれやられたら超絶嫌だわ〜」

「え、そういうもん?ゆうちゃんも嫌だ?」


心が沈みかけていたところに追い打ちをかけるように山田に質問された。一瞬言葉につまる。


「わ、私は……好きな人と2人で行った方がいいと思う」


なんとか捻り出した自分の言葉に抉られる。

最後まで、普通の声で伝えられていただろうか。自信がない。

ユキくんの視線には気づいたが、それに返す余裕はなかった。


美桜(みお)ちゃんなら許してくれそうだけどなぁ」


今まで避けてた話題分初めて、彼女さんの名前は美桜さんと言うのかと頭のどこかで冷静にキャッチする。

名前の通り、可愛らしい人なんだろうなと想像する。

そして、勝手に「美桜ちゃんなら」という言葉に傷ついた。

質問しておいて、結局意見なんて求めていないではないかと惨めな気持ちになる。

せっかく、楽しい気持ちでいっぱいだったのに、こんな一言で落ち込んでしまうメンタルの弱さに悲しくなってしまった。


「それから、祭りで会っても絶対に俺らに声かけるなよ。俺らもかけないから。大体、恋愛ものは偶然鉢合わせて誰かが傷つくっていう展開にもってかれるんだからな!本当に厄介だから!」

「いや、幸也、恋愛漫画の影響受けすぎ……と、思うけど、分かったよ」


ユキくんがいつになく熱を込めて力説し、山田もユキくんの熱弁ぶりに押されて渋々了承していた。

私は、惨めな気持ちや悲しい気持ちを隠すのに精一杯で、その日はなんとか理由をつけて自習もそこそこに帰ることにした。

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