出会い3
「え?俺、ゆうちゃんとは付き合ってないよ?」
「何言ってんの?」と心底不思議そうにしながら、山田はさらりと事実を述べた。
揶揄っていた男子も真面目に否定する山田に驚きながら、狼狽えていた。
「もちろん、ゆうちゃんのことは好きだよ?だけど、女神様って憧れの対象みたいなもんだし、ゆうちゃんのことは恩人として大切にしたいって感じだから、恋愛的な意味での好きとは違うよ。それに俺、彼女いるし」
あまりに自然に否定の理由を説明した山田の最後に発した言葉を聞いて、揶揄っていた男子はただただ驚いているようだったが、その場にいた誰よりも笑愛ちゃんが大きな声を出して驚いていた。
その時の私はというと、毎日優しく話かけられて勘違いをし始めていた恥ずかしさや好きになりかけていた気持ちに気づき、感情が置いてけぼりになっていた。
「さっき、「面白くない」って言ったのは、楽しそうなことしてるのに混ざれなかったからだよ。それに、俺はゆうちゃんに相応しい彼氏かどうか見極める側だから」
「いや、父親かよ!」
「それもいいね。どう?ゆうちゃん、俺の娘になる?」
揶揄っていた男子にツッコミを入れられ、調子のいいことを言い始めたのを面白がって周りで様子を伺っていた男子達が集まってきた。
そして、根掘り葉掘り山田の彼女について質問を繰り広げた。聞こえてきた内容としては、彼女は隣町の女学院に通う同じ高校1年生で、中学卒業してから付き合っているとか、今度その友達含めて遊びに行こうだとか知りたくもない情報を知ってしまった。
その輪の近くにいることを苦痛に感じた私は、どうにかこうにかその場を離れた。というより逃げた。
ようやく中庭のベンチに腰を下ろして先程までの感情を整理しようとすれば、笑愛ちゃんとユキくんが隣に座った。
「由宇花……って、なんで山中がついてくるわけ?」
「あ、ごめん。三浦さんが泣きそうな顔していたから、心配になって」
泣きそうな顔と言われた時には泣いていたと思う。
「あれ?んん?……なんで涙なんか」
泣くつもりなんてなかったはずなのに止まらなかった。
「由宇花……」
「ごめ、ん。泣くつもりはなくて…グスッ」
笑愛ちゃんは私の名前を呼んだきり、背中を優しく撫でてくれた。
「三浦さんは、一舞のこと……」
「い、言わないで!……言わないで」
空を仰ぎながら、ユキくんが言葉を綴ろうとしたのを慌てて遮った。
それを声に出されてしまったら、この行き場のなくなってしまった感情の終着点に辿り着いてしまうように思えて少し怖かった。
「お願い」と消え入りそうな声でユキくんに伝えると「ごめん。今のは俺が悪かった」と謝ってくれた。
この時、山田との友達という関係を失わずに済むのならと、この感情を隠すと決めた。
笑愛ちゃんとユキくんには「気づかなかったことにして」と言ってみたが「俺達が覚えておくよ」「味方がいれば気持ち的に楽でしょ」と言われた。
だから、山田と変わらずに友達として傍にいられたのはこの2人のおかげが大きいように思う。
なんとか泣きやんでから、授業に間に合わないと慌てて教室に戻れば、「何かあったの?」と隣の席にいつもと変わらない山田が座っていた。
「別に何もないよ」と返せば、今度は後ろのユキくんに「幸也?俺、千田にものすごく睨まれてない?」と顔を少し引き攣らせた。
笑愛ちゃんの方を向けば、見たことないくらい怒った顔をしていた。「やめて」とサインを送れば笑顔を返された。
ため息をつけば、「一舞……甘んじて受け入れろ」というユキくんの言葉に納得いかないと口を尖らせた山田が「ちぇ…」と拗ねた。それを見て一瞬でも「可愛い」と思ってしまったことを忘れようと頭を振った。
それからも山田の態度は、全く変わらなかったが、周りの態度が少し変わったと思う。
付き合っているという噂が嘘だと知れ渡ると少し距離を置いていたらしい人達とも話す機会が増え、生活は少し円滑になったように思う。
それと同時に何故か他校に彼女のいる山田が告白される機会が増えた。
そもそも付き合っているという噂自体がどこから出たものなのかが分からないが、山田を好きと自覚した時に訳も分からないまま失恋の道に立たされた私は、ずっとそこから動けていない。
山田に優しくされてドキドキするのも私だけという何とも一方通行な関係が続くことなんて想像もしていなかった。
それから、ユキくんとはよく小説や漫画の話をするようになって仲良くなり、必然的に笑愛ちゃんと3人でいることが増えた。
そして、あの一件以来、ユキくんに山田もよく話しかけるようになり、2人が仲良くなるのに時間はかからず、自然と4人で過ごす時間も多くなった。




