春4
そろそろ2人も1組へ移動しなくてはいけない時間だと気づいたユキくんが「昼、どこで食べるの?」簡単に質問すると、山田は考え込んで良いことが思いついたと嬉しそうに提案した。
「あぁーじゃぁ、千田と一緒に3組来るよ」
「はぁ???なんで山田と一緒に来ないといけないわけ?」
山田の提案にさっきまで笑っていたはずの笑愛ちゃんは不服そうに反論している。
山田は笑愛ちゃんがどうして不機嫌なのか本気で分からないようで頭の上にクエスチョンマークが浮いてるのが分かる。
私は、クラスが変わっても山田とお昼を一緒に食べられる嬉しさを表情に出さないように気を引き締めるので精一杯だ。
「だって、千田はゆうちゃんと一緒に食べたいんだろ?」
「……いや、由宇花とは一緒に食べるけど、山田とは約束してないから」
「別に俺だって千田と約束はしてないよ?俺は幸也とゆうちゃんといつもみたいに食べようと思っただけだけど?」
「は?いや、なんで3人に私が混ぜてもらうスタンスな訳?逆でしょ?」
「お前、1年の3学期、昼飯は彼氏と食うって言ってほとんどいなかったの忘れたとは言わないよな?」
「………………そうだっけ?」
山田の言う通り、笑愛ちゃんは受験の終わった彼氏さんが遠くの大学に受かったのをきっかけに、できるだけ一緒に居たいと昼休みの時間を私達とは別々に過ごした。
だから、3学期中は、山田とユキくんと一緒に昼休みの時間を過ごすのが自然になっていた。
それもあって、笑愛ちゃんから誘われた時は嬉しかった。
だけど、クラスが違ってしまった山田が普通に私をお昼のメンバーに入れていることで益々嬉しさが増す。
確かに笑愛ちゃんは、彼氏優先ではあったけれど、好きな人と一緒にいられる時間を大切にしていて幸せそうだったし、そんな笑愛ちゃんを見ると私も嬉しい気持ちではあったから特に不満を抱いたことはない。
ただ、ユキくんは、少し元気がない時もあったので心配していた。
その分山田が騒がしかったので気はそれとなく紛れていたようにも思うけれど……。
納得できず頬を膨らませる笑愛ちゃんと「間違ったことは言っていない」と開きなおる山田の会話に笑いそうになれば、ユキくんがため息をついてそれを止めてくれた。
「……はぁ、どっちでもいいからそんなの。じゃ、俺は三浦さんと教室にいるよ。行こう三浦さん、席確認しないと」
「あ、うん。笑愛ちゃん、山田、また後でね?」
「……もぅ仕方ない。山田がいても我慢するか。私、山田と違って、大人だから!!由宇花、後でね」
ユキくんに促されて、2人に別れを言えば、笑愛ちゃんはとりあえずお昼を4人で食べることに了承し、教室の方へ向かって歩き始めた。
山田はそれにため息をついて、ユキくんを再び呼び止める。
「……どの口が言うんだかな…はぁ。あ、幸也!ゆうちゃんのこと頼んだよ?」
「はいはい。分かったよ。パーパ?」
ユキくんは、山田の言葉に茶化すように答えた。
相変わらず、父親ポジションは変わりなしかとため息をつきたくなったが、今日はユキくんの珍しい姿ばかり見るなぁとも思う。
やはり、ユキくんなりにクラス替えについて思うことでもあるんだろうか?
山田もユキくんのそんな態度に少したじろいでいるような気もする。
「なっ!?……ったく、ゆうちゃん、お昼にね。あ、千田待てって」
2人のいつもと違うやりとりに少し意識を飛ばしていれば、山田は私の頭を先程より強く「わしゃわしゃ」に撫でてから笑愛ちゃんの後を追いかけた。
「またね」と背中を見送って、クラス分けを知った時のショックが再び胸の中に広がる。
気を張らなくて済むとホッとした自分が今では少し恨めしい。
髪の毛を手で直しながら、去年のように山田も笑愛ちゃんもいない教室が私に耐えられるだろうか……?と考えて俯く。
「弱気にならないようにしないと」と気持ち新たに、顔を挙げれば、笑顔のユキくんに「三浦さん、俺の隣だって」と優しく話しかけらた。
「ユキくんが隣で良かった」
「俺もそう思う。それで、ついに読破できたシリーズの話したいんだけど、三浦さんは読み終わった?」
「え、早い!私まだ途中だよ!?」
「じゃぁまだ話せないのかぁ」
いつもと変わらないユキくんにホッとしながら席について、「後ちょっとだから待ってね」と言いかけて止まる。
何故なら、隣に座ったはずのユキくんが大きな何かに勢いよく抱きつかれたから。




