春2
玄関を通り抜け、教室に向かう途中の廊下を4人で歩き始めたけれど、先程から黙り込んで誰も話さない。
居た堪れなくなって、「担任は誰になるだろうね?」と空気を変えるために話しかければ、堰を切ったように笑愛ちゃんと山田が口論を始めてしまった。
ユキくんに助けを求めてみるものの珍しく2人を止めに入らず、見つめるだけになっている。
ユキくんにどこか違和感を感じつつも、とにかく一旦止めに入るために2人に言葉をかけることにした。
「ふ、2人とも落ち着いて、ね?」
できるだけ優しく、穏便に、2人の気持ちを逆撫でないように注意してはみたが、笑愛ちゃんはワナワナと手を握りしめて悲しそうに俯いた。
先程まで、私の方がショックを受けていたはずなのに、今は笑愛ちゃんの方がその気持ちが大きくなっているのが分かる。
「笑愛ちゃん……」と名前を呼ぼうとした瞬間に、思い切り顔を挙げた笑愛ちゃんは再び山田に食ってかかってしまった。
「ねぇ!?どうして!?どうして、私が山田と同じクラスで由宇花と別々なの!?」
「千田、それは酷くない?俺だって千田よりゆうちゃんと一緒が良かったんだけど?」
山田の煽るような言い方に戸惑いながらも余計にヒートアップしてしまったことに頭を抱えたくなる。
ただ、笑愛ちゃんには申し訳ないけれど、社交辞令だとしても山田から「一緒が良かった」と言われたことが嬉しくて思わず頬が緩みかけてしまった。
それがバレないように2人の間のもう一度仲裁に入ろうとしたら「グワッ」と笑愛ちゃんに抱きつかれた。
「由宇花も私と同じクラスが良かったに決まってるでしょ!ね!」
その言葉を理解するより先に衝撃によろけてしまい、足を踏ん張ずに倒れかけてしまった。
そして「どうしよう!?転んじゃう!?」と思った時には山田に支えられていた。
「危ね……ゆうちゃん大丈夫?」
「あ、ありがとう……」
今までにない近い距離に心臓が跳ね上がる。
心配そうに問いかける山田の顔が近い。
きっと私の顔は今真っ赤になっていると分かるくらいに熱い。
なんとかお礼を伝えてすぐに離れた。
「……千田、気をつけろよ」
「うっ……ごめん!由宇花、思いっきり抱きついちゃった……」
山田が簡単に注意をすれば、笑愛ちゃんは顔を青ざめさせてすぐに謝ってくれた。
ただ「大丈夫だよ」以上の言葉は出なくて、さっき感じた山田の体温とか匂いとか鼓動とか男の人だって分かる胸板とか手とか意識しないように気をつけていたことを改めて意識してしまい、頭の中が混乱している。
なんとかもっていかれた意識を取り戻したくて「教室行こう」とぎこちなく歩き始めれば、2年3組の教室に到着していた。




