放課後7
「な、中峰くん!?……驚かさないでよ……」
「ハハハ!ごめん、ごめん。先生からカズに渡すよう頼まれたものがあってさ!あ!でも、別にわざと聞いたわけじゃないからな!たまたま、聞こえちゃっただけだから!」
「そ、そんなに大きい声出てた……?」
「……廊下に聞こえるくらいには」
思わず出た声がそんなに響いていたなんて恥ずかしすぎないだろうか。
カッと顔に熱が集まるのが分かる。
「まぁ、みんなもう帰ってるし、静かな場所の音って響くし、大声だったわけじゃないからそんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ」
「うっ…!そこまでフォローされると余計に恥ずかしい」
「フハッ……三浦さん、照れると可愛いね」
「っ!?……中峰くん、面白がってるでしょう?」
中峰くんとはそんなにたくさん話すわけではないが、揶揄って反応を楽しんでいる節があることに最近気づいた。
そして、山田への気持ちにいつの間にか気付かれている。
とりあえず、これ以上話を掘り下げられても困るので呆れ気味に返答すれば「本当なのに」と口を尖らせた。
山田もモテるが、中峰くんのモテ方もすごいのでこうして女子が落とされていくんだろうなと、どこか冷静に引いて関わる自分がいる。
本気にするだけ無駄なのだ。山田を見ていてよく分かる。
そして、2人が親友というのは大いに納得できる。
「もしよければ、それ渡しておこうか?」
「本当?助かるよ。じゃ、俺、部活行く途中だったから、またね」
「うん。頑張ってね」
そう言って見送って、視線を窓の外に移すが、もぅ中庭には誰も立っていなくて落ち葉が舞っているだけ。
鈍色の空を見てため息をつけば、廊下から走ってくる足音が聞こえてきた。
「ゆうちゃん!お待たせ!ただいま!!」
山田は何故か毎回、告白終わりは走って戻ってくる。
それも決まって嬉しそうに。
最初の頃は新しい彼女でもできたのかと不安に思ったが、いつも告白は断っているらしい。
今も笑顔で戻ってくる理由は分からないが、何故告白をOKしないのか聞いたら「知らない子達だから」と簡単に答えられたのはわりと最近だ。
そして、それからお互いに告白についての話はしないのが暗黙のルールになった。
話を聞いてしまったら、自分の気持ちも言ってしまいそうで怖いというのが1番の理由だったりするけれど。
「おかえり……これ、中峰くんが先生から頼まれたって」
山田の鞄と中峰くんから託されたプリントを渡す。
それを受け取った山田の空気が少しヒリッとしたのをなんとなく感じる。
「……健、来てたの?」
「うん、さっきまでいたよ」
「な、何か言ってたりした?」
「え…………特には?」
「……今の間、何?」
何か伝言を頼まれたか思い出そうとしただけの間だったのだけれど、怪訝そうに問われれば怪訝そうに返したくなる。
「なんで?」
「え!?いや、ほら、あれだよ。俺のよくない話とかそういう……」
歯切れの悪い山田に「中峰くんは山田を悪く言ったりしないって知ってるくせに」と返せば「……確かに」と納得していた。
どうしてそんなに中峰くんとの会話をいつも気にするんだろうと不思議に思う。
特に、夏祭りの日の出来事は何があったのか詳しく聞き直された時は意味が分からなすぎた。
「山田、ユキくんが待ちくたびれてるだろうから早く行こう?」
「あー…うん。そうだね」
「テストが終わったけど、今日はその問題使って復習するんだっけ?」
「ゆうちゃんが自分から率先して勉強の話するなんて珍しいね?」
「……ちょっと、バカにしてる?」
「え!?俺がゆうちゃんをバカにするはずないよ!?」
いつも通り、それが山田を好きだという気持ちを隠した私が心がけていること。
「友達」の枠を出ないように気をつけながら、これ以上好きにならないように何個も鍵をかける。
だから、新学年になって迎えた春に、それが壊されることになるとは想像すらしていなかった。
1枚のラブレターがこれからの私達の未来を変えるものになるなんて、やっぱりまだ誰も気づいていない。




