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放課後1

2学期の始業式後、何故か担任の五十嵐先生に私と山田は教室に残されている。

たまたま教室を出ようとしていた私とたまたま教室に入ろうとしていた山田が出入口で固まっていたところを五十嵐先生に見つかってしまったが故のお手伝いに駆り出されてしまったというわけだ。

ちなみに、笑愛ちゃんは「彼氏と帰る」と早々に教室を出て、ユキくんは図書委員の集まりに行ってしまった。

山田もクラスの男子達と賑やかに帰ったはずなのに、何故戻ってきたのだろう?と不思議に思って山田を見れば、視線をそらされた。

朝から挨拶以外は避けられてるように感じている。


「……ホチキスでパチーンパチーンって終わり見えないんだけどー」

「山田さ〜ん、文句言ってないで手を動かせ〜三浦さんを見習え〜」


「どんだけあるんだよー」と不貞腐れている山田に「内緒でジュース奢るから」と言いながら五十嵐先生は紙の束を机の上に並べた。

どうやら授業で使う資料がまとめ終わらなかったらしい。

そして、廊下から複数人の走る足音が聞こえてきた。


「五十嵐先生ー!!部活メニューもらっていいですかー!?」

「げ、やべ!?今から行く!」


女子バスケ部の顧問をしている五十嵐先生は、いつも忙しそうにしている。

数人の女子の視線は山田に向いているのも簡単に分かる。

告白もされて騒がれているのに、本人は何故か気にしていないんだよなぁとか、そんなことを考える。

文句を言いつつもキラキラして見えてしまうのだから重症のような気もする。

そして、やっぱり夏祭りで見た山田と彼女さんは私の中から消えてくれなくて、真っ黒い感情が押し寄せる感覚に近づきそうになる。

2学期に入ったら、もっと上手く気持ちを隠して山田の望む「友達」でいようと思っていたのに、いざ本人を目の前にしてしまうとその決意は簡単に揺らいでいる。


「山田さん、三浦さん、ごめん。任せちゃっていい!?」

「はい。終わったら、教卓の上に置いておきます」

「ゆうちゃんがやるなら、仕方ないなぁ」

「助かるよ!!!」

『ポーン……五十嵐先生、五十嵐先生、至急職員室までお越しください』

「うわ!?会議あるの忘れてた!」



教室からバタバタと五十嵐先生と女生徒達が立ち去った後は、静かだった。

トントン、パチンと資料を束ねる音だけが続いている。

何か話題はないかと手を動かしながら考えていると山田が先に口を開いた。


「あの、ゆうちゃん、幸也から聞いたんだけど……体調崩してたって、もぅ大丈夫なの?」

「……うん。大丈夫」

「そっか……」


せっかく話しかけてくれたのに、会話を終わらせてしまった……え、待って、他に続くような返答の仕方あった?

どうしよう。

夏の特別授業以来、まともな会話をしていなかったのもあって、どんな風に山田と接していたのか記憶の中を辿る。

だからと言って、バス停での出来事を話す気は起こらない。


「そ、そういえば、中峰くんって、美味しそうに食べるよね」

「え?」

「会うたびに何か食べてて驚いちゃった」


なんとか話題を思い出せたことに安心して頬が緩んだのが自分で分かる。

話しながら、手を動かしている私とは対照的に山田はこちらを見つめた状態のまま動きが止まっていた。


「……山田?手、止まってるよ?」


不思議に思って問いかければ、山田は少し俯いた。

表情はよく見えない。

今までみたいに明るく中峰くんの話をすると思っていたのに、「……健といつ会ったの?」と抑揚のない声で質問された。

山田にあの日の話を詳しくするわけにもいかず、「お祭りで」と簡単に返せば「そう、なんだ」とそれ以上のことは聞かれなかった。

興味をもたれていないことに改めて気づいた私は「山田を好き」というこの不必要な感情を捨て去るべきという1つの答えを提示されたように思えてしまった。

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