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夏10

会場の近くの公園では、子ども祭りの片付けがされていた。

人もまばらになっていた所を中峰くんの友達が教えてくれた。

とりあえず、水道で足や浴衣の裾部分を軽く洗えたことにホッとしてベンチに座っていたら中峰くんが戻ってきた。


「冷たい物、食べたら気分も替わると思うから、はい」


やっぱり浴衣姿だと少し大人っぽいというかイメージが変わるなと思いながら「ありがとう……」とお礼を伝えた。

手にそっと渡された練乳のかかった苺けずりを溶けないうちに一口運べば、口いっぱいに苺が広がった。


「美味しい!」

「だろ!ここのは毎年格別なんだ〜冷てぇ」


そう言いながら嬉しそうに食べる中峰くんの満面の笑みを見て、さっきまであった暗い気持ちが少し薄れたように感じる。

それでも、私は心のどこかで「山田と食べてみたかったな」と失礼なことを考えている。

それを誤魔化すために何度も「美味しいね」と言葉にして苺けずりをひたすら食べた。



食べ終えるとさっきまで公園にあった賑やかさは薄れて祭り会場の光がぼんやりと灯り始めた。


「落ち着いたみたいで安心した!ユキ達には連絡取れた?」


中峰くんは泣いてた理由も聞かずにいつもと変わらずに接してくれている。

自然にそうしているのか敢えてなのかは分からないけど、山田と幼馴染の中峰くんに説明もしづらいので助かった。


「あ、うん。今から来てくれるって……中峰くん、その、ごめんね。せっかく友達と楽しんでたのに」


ユキくんに連絡を入れれば、笑愛ちゃんの文面と分かるくらい「由宇花、すぐ行くからね」と可愛い絵文字のついた返事がきた。

ユキくんのためには、このまま2人で花火の方が良いような気もしたけれど、私の我儘で2人にどうしても会いたくなってしまった。

心の中で「今度、読みたいって言ってた漫画も小説も持ってくるから許して」と謝った。


「あーいいの。いいの。アイツらいつでも会えるから」


中峰くんはどこまでも優しいなと思いながら、往来での出来事を思い出す。

水溜まりから泣いている私を引き上げた中峰くんの後ろから4、5人の男子がひょっこりと顔を出して「健、女の子泣かせるなよ〜」「え、おま、何泣かせてんだよ!?」などなど口を開き続けた。

その中の1人がこの公園を教えてくれたわけだけど……通り過ぎていく人達の視線がすごく痛かったように思う。


「……でも、ごめん。中峰くんに迷惑かけた」

「ふはっ!迷惑だとは思わないよ?三浦さんが俺に頼ってくれたみたいで嬉しかった」


申し訳なさでいっぱいになって謝れば、中峰くんは笑って少し真剣な表情になったような気がする。

その眼差しを柔らかくしながら言われたことが理解できず聞き返そうとすれば、いつもの顔に戻って私の足の方を指差した。

私は、その方向に視線をずらす。


「足とか洗えた?大丈夫そう?」

「あ……うん。中峰くんのおかげで、直ぐにそこの水道で洗えたから助かったよ。ありがとう」


もっと早くお礼を伝えるべきだったなと反省していると「どういたしまして!……に、してもアイツら、俺が泣かせたって決めつけてたの酷いよなぁ」と中峰くんはため息をついた。

ただでさえ、あたふたしている中峰くんを「珍しい」と言って、中峰くんの友達は一斉に騒ぎ立てた。

往来の真ん中で半分絶望していた中峰くんを思い出して自然と口元が緩んでしまった。


「……ふふっ」

「あ!面白がってる〜?三浦さんのせいなのに〜」


プクッと頬を膨らませた中峰くんだけど、声はどこまでも優しくて怒っている訳じゃないと分かる。

なるほど、中峰くんがモテるわけだと、自覚した。

きっと学校の女の子たちが見たらときめかずにはいられないんだろうな……


「そうだ!中峰くん、これいくらだった?」

「あぁー…いいよ!俺の奢り!」


苺けずりの代金を払っていないことを思い出し、質問すれば嬉しそうに返事をされた。

「迷惑かけた上に奢らせるのはちょっと気が引けるから、払わせて?」と伝えれば、中峰くんは考え込んだ。


「気にしなくていいのに真面目だなぁ……あ!じゃぁ、2学期に入ったら学食奢ってよ!俺、クラス委員とか部活で忙しくて行ったことなくてさ!あ!2人だと緊張しちゃうよな、カズ達も一緒に!」


想像もしていなかった提案に答えが出せずにいると、「あ!いた!!由宇花!!」と笑愛ちゃんの明るい声が届いた。

声のする方を振り向けば、笑愛ちゃんとユキくんがこちらに向かってきていた。

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