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夏7

「カズくん?」


永遠にも思えたその一瞬を不安そうな可愛い声が打ち消した。

山田より数秒早く動揺から脱した私は咄嗟にスマホをその手からやや強引に受け取った。

そして、何事もなかったかのように時刻表の物陰に隠れることにする。


「……ゆうちゃん、だよね?」

「え?三浦さんいるの?」

「あ、本当だー!三浦さんだったんだ!」


山田がしっかりと言いなおしてしまったせいで、クラス男子達にも気づかれてしまった。

あえて、他人のフリをしようとしていたのに今までの努力が水の泡としか思えない。

そもそも山田はユキくんと「会っても声をかけない」と約束していなかったかと問いただしたい気持ちをグッと堪えて、あえて、いつも通り、平静を装うよう気を引き締める。


「や、山田もお祭り来てたんだね〜」


これは、すごーく無理がある。

この地域の大きな花火大会だ。

誰だって来るだろうし、そもそもお祭りデートをすることすら事前に知っている1人な訳だし。

そして、彼女さんとご対面する勇気が微塵もなくて声が少し震えてしまった。

どこに視線を置いたらいいのか分からず、どうしても俯いてしまう。


「三浦さんも花火見に来たんだー?1人?」


しかし、そんなの男子達には関係ないようで陽気に話しかけてくる。

「笑愛ちゃんとユキくんと来たけど、はぐれちゃって」と簡単に返せば「それは災難」と同情してくれた。

気になってチラリと山田を見れば、何故か固まっていて心なしか顔が少し赤くなっているように見える。

心配になって「大丈夫?」と問いかけかけようとしたら、彼女さんがぴょこぴょこと足を少し引きづりながら、山田の服の袖を「カズくん、だぁれ?」と引っ張っている。

彼女さんの値踏みするような視線を感じる。

視線を彼女さんの方に戻した山田が何か言いかけた時に1人の男子がテンション高く私を紹介した。


「美桜ちゃん!この子がさっき話してた三浦さん!」

「そう、なんだ!……私はカズくんの彼女の有馬美桜です!いつもカズくんがお世話になってます」


どこまでも可愛らしくそう告げた彼女さんは、山田の指に自分の指を絡めた恋人繋ぎをしながら、嬉しそうに自己紹介してきた。

改めて、小さくてフワフワしてて可愛らしいを詰め込んだような人だなと思う。

いつの間にか自然に繋がれた2人の手から目が離せなくなった。

心が軋む音が聞こえた気がする。

とても鈍くて切ない音に少し息苦しささえ感じて。


「三浦、由宇花です」


名乗るだけで精一杯になりつつ、顔に貼り付けた笑顔を崩さないように意識を集中させる。

本来なら笑愛ちゃんやユキくんと楽しく過ごせていたはずなのに、なぜこんな逃げ場のない場所で好きな人とその彼女の仲が良い姿を見なくてはいけないのだろうと考え始めたら、今まで仕舞い込んでいたはずの黒い何かがズルリと溢れ出そうな錯覚に陥る。

先程まで、振り続けていた雨音が小さくなったことに気づき、視線を2人の手からそらせば、いくつもできた水たまりが夕日の光に照らされ始めて夕立の終わりを知らせてくれた。


「……雨、止んだね」

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