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夏6

雨がどんどん強まっていることに絶望しつつも、横にいる人達から極力距離をとっている状態に疲れている。

ユキくんの「どうした!?大丈夫?」という文字に「山田と鉢合わせただけ」と簡単に返した。

逃げ場のない距離に萎縮している私だが、耳はしっかりとグループの会話に向いてしまっている。

時刻表を見るフリを続けつつ、「本日お祭りの時間帯、通行止めのため運休」という貼り紙をただ眺めている人になっている。


「美桜ちゃん、足、大丈夫?」

「痛いけど、雨の中、カズくんと走れて楽しかったよ」


心配そうに聞く山田にものすごく可愛い声が答えた。

あまりの可愛さに思わず視線を向ければ、想像以上に可愛い人と目が合ってしまった。

気まずすぎて不自然に視線を逸らす。

会話と先程の姿から察するに、どうやら彼女さんは下駄で靴擦れを起こしてしまったらしい。


「えぇ、美桜ちゃん、痛そう!!」

「一舞、美桜ちゃんの足のこともっと考えて歩けよ!!」

「わ、私が勝手に下駄で来ただけだから」

「いや、美桜ちゃん、俺らが言ってやるから!」


「美桜ちゃん、美桜ちゃん」と騒ぐ男子陣に、儚く答えた彼女さんは庇護欲を大いに刺激しているように思う。

山田と彼女さんに気を取られすぎて気づかなかったけど、一緒にいる男子達は同じクラスの人達だと気づいてしまった。

ますます気まずくなり縮こまる。

この時刻表しか隠れる場所がないのが心許ない。


「というか!いつまで着いてくるんだよお前ら!!」

「少しくらい良いだろうが!俺らは一舞じゃなくて、美桜ちゃんに会いに来てんだよ!!」

「いや、俺ら今デート中だから」

「知るかよ。独り占めするなって!しかも、こんな雨の中どこか行けって言われても行けねーよ」


どういう経緯かは分からないが、たまたま一緒になってしまっただけらしい。

そんな私も今、鉢合わせてしまっているので何とも言えない。

そして、このまま気づかずにいてほしいと願っている。


「俺らだって、可愛い子と夏祭り行きたいんだよ!!」

「誰か誘って来れば良かったろ?俺らを巻き込むなよ!」

「まぁまぁ、カズくん、私はいいよ?カズくんの学校での話とか聞けるし、ね?」


ヒートアプする男子達の会話に柔らかく可愛く間に彼女さんが入れば、「ほら、美桜ちゃんは優しいぞ」と山田にドヤ顔をしている様子が見なくても分かる。


「大体、お前はずるい!こーんなに可愛い彼女がいるのに、学校でも女子に人気とか!世の中は不公平だ!」

「俺達だって、美桜ちゃんみたいな彼女ほしいし、千田さんや三浦さんと仲良くしてーよ!!」

「はぁ???」


山田が呆れながら、ため息をついたのが分かった。

私は、突然出された自分の名前に驚いてしまったけれど、声を出さなかっただけ、マシだと思いたい。

そして、誰もそれに気づいていないことに安堵する。


「……千田さんと三浦さんってどんな女の子達なの?」

「あ、美桜ちゃん、彼氏の女友達だもん。気になっちゃうよね〜?でも安心してね。コイツ、高らかに彼女いる宣言して、千田さん達のことは友達って言い切った男だから!」

「千田さんは、1学期の終わりに彼氏ができちゃったんだけど、やっぱり高嶺の花的な存在だよな!三浦さんは、美桜ちゃんも聞いてない?女神様って大騒ぎしてなー」

「お前ら、騒いでたら迷惑に思われるだろ。すみませんうるさくて」


はい。私が友達って言い切られた人ですね。言葉にされて再認識させられたように思う。

ただそれ以上考えたくなくて「やっぱり笑愛ちゃんは高嶺の花だよねぇ」と心の中で強く同意していしていると、何故かこちらの方に山田の声が発せられた。

「え?私?」と思った時には注目されている視線をひしひしと感じてしまった。

どうにか顔を向けずに小さい声で「いえ。お構いなく」と返す。


「むぅ……せっかく教えてもらえそうだったのに」


彼女さんが不服そうにそう呟けば「こいつらの話よりも今度会った時に知ればいいよ」と山田は優しく返した。

その優しい声を聞きたくなくて、早くこの雨が止まないかと思っていたら1人近づいてくる気配を感じる。

咄嗟に持っていたハンカチで口元を抑えて、視線を彷徨わせる。


「あの、もし、持っていたらでいいんですけど、絆創膏ありますか?」


声で、完全に山田だと理解した。

バレたらまずいと挙動不審になっている私の頭の中は真っ白だ。

慌てて巾着の中から予備で持ってきていた絆創膏を渡す。


「助かります!ありがとうございます!」


元気にお礼を言われたタイミングで私の巾着から荷物がこぼれ落ちてしまった。

拾うためにしゃがめば、山田は一緒に拾ってくれる。

この距離でもバレない私って一体……と冷静に自分自身を嘲笑いたくなっている。

最後に山田が私のスマホを手にして動きが止まった。

不思議に思いつつ、視線を合わせないように受け取れるよう手を伸ばしたけど、山田の手がスマホから離されることはなかった。


「……ゆうちゃん?」

「え?」


小さい声で呼びかけられたことに驚いて思わず顔を上げてしまった。

視線が絡む。呼吸が止まる。

まるで世界に2人しかいないかのようなそんな錯覚に陥りそうになるくらい雨の音だけがその場を満たしていた。

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