夏5
「姉貴のせいで言うの遅くなっちゃったけど、2人とも今日も可愛いね。似合ってる」
「ユキ、さすが!分かってる!!」
「張り切った甲斐があった」と嬉しそうに笑愛ちゃんがユキくんの腕を軽く叩く。
ユキくんも「やっと言えた」と楽しそうにしている。
「やっぱり可愛いって言ってもらえると嬉しいね」なんて呑気に私が返した瞬間、雷鳴が轟いた。
「っ!?」
音に驚いて見上げれば、遠くにあったはずの雲が近くにきていた。
周囲にいた人達も音に驚きつつ「これは、少し降るかもね?」「花火の時間までに止むといいけど……」「毎年祭りの日に降るよね〜」と誰かに話しかける声が聞こえる。
心なしか人の歩く速さが少し早まったようにも思う。
「一回降りそうだし、場所取りの前にお店に入って雨宿りしてようか?」
「そうね。その方がいいかも。混みそうだし」
ユキくんと笑愛ちゃんの話に「どこに行こうか?」と話かけた時には誰もいなかった。
人の波に流されて完全にはぐれてしまったことを理解するのに時間はかからない。
とりあえず、立ち止まるわけにもいかず、流れに合わせて歩きながら、その人波から出ることを目指す。
「すみません、すみません」と言いながらなんとか道脇に出られた。
下駄じゃなくて、お母さんの言う通りにサンダルで来て良かったなぁとなんとなく思う。
巾着の中からスマホを取り出してユキくんと笑愛ちゃんに連絡をしてもなかなか繋がらない。
「困ったなぁ」とぼやいていると、雨が降りはじめてしまった。
雨宿りできる場所がなかなか見つからず、神社から少し離れたバス停の軒下に入り、ハンカチで軽く拭く。
そして、ようやく慌てた様子の笑愛ちゃんから連絡が入った。
「由宇花!!大丈夫!?どこにいるの!?」
「あ、大丈夫だよ。今ね〜……ここはどこのバス停だろう?」
「え、何?聞こえな」
笑愛ちゃんの後ろから陽気な祭囃子が聞こえるから聞きとりづらかったかなと思った時には、プツッと通話が切れる音が耳に届いた。
不思議に思って画面を見れば、今度はユキくんからの着信だった。
ユキくんが「千田さん、充電切れだって。で、どこにいるの?」と聞いてきた後ろの方から、笑愛ちゃんが「由宇花ーごめーん!」と言っている声も聞こえる。
「今、神社から離れたバス停にいるんだけど……すぐには戻れなそう」
雨音が先程よりも激しくなっている。
今動くのは得策ではないように思う。
「周りに人いる?」
「人は……」
「誰もいない」と答えかけて、思考が止まった。
耳元でユキくんが「え、どうしたの?何?」と心配そうにしている声がするけれど、それをどこか遠くに感じる。
数人こちらに走ってきたのが視界に入ってきた時に、可愛い彼女を連れた山田がずぶ濡れになりながら、楽しそうにこちらに走ってきたから。
私は慌てて通話の終了ボタンを押した。




