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毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~  作者: ケ・セラ・セラ
第二章「人々の自由と平和のために」
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01-08 六虎亭




「はじめに虚空あり。創造の八神そこに生ず。 

 即ち『祭壇』『雌馬』『針』『牡牛』『エーテル』『足跡』『熊』『使命』なり」


                     ――創世神話の冒頭――




「また面倒な依頼が来たわねえ・・・」

「大丈夫じゃない? あの子が引き受けてくれるでしょ」

「まあね」


 事務員たちがカウンターの中で笑い合う。

 ここは六虎亭。いわゆる冒険者の酒場で、王都に10以上ある同種の店の中ではかなり流行っているほうだ。特に女性冒険者に人気が高い。


 その秘密は店の主人が習得している"味変化(デリシャシィ)"の呪文にあった。

 名前の通り食材に様々な味を付与する呪文だが習得難易度が高く、習得者はメットー全体でも二十人いないと言われる。そんな術者の大概は食神(バーテラ)の司祭か貴族お抱えの料理人になってしまうので、庶民を相手に商売する者はほとんどいない。


 主人の腕もあって料理が美味なのは当然だが、重要なのはむしろ飲み物だ。

 ひねりも何もなく"甘水(スイートウォーター)"と名付けられたそれはただの水。

 ただし、"味変化(デリシャシィ)"の呪文によって蜂蜜のような甘ったるい風味がつけられた水だ。


 これが馬鹿受けした。

 綺麗な水が貴重ゆえに酒類に対する許容度の高い世界ではあるが、それでも酒が苦手な者はそれなりにいる。

 おまけに甘味がまだまだ貴重な世界で、普通の水と大して変わらない値段で甘ったるい蜂蜜水を飲める!


 酒臭くない!

 酔わない!

 太らない!


 ここまで揃えば女性冒険者の人気が爆発するのも当然!当然!当たり前!で、これ目当てでやってくる一般人すら少なくない。

 ともかく、近頃のこの店には一人の名物冒険者がいた。


 いわく、銭ゲバ。

 いわく、仕事を選ばない節操無し。

 いわく、ギルドに逆らうものを裏で始末する掃除屋。

 いわく、ギルド長の愛人。


 同輩の冒険者たちからの評判はさんざんであり、対照的にギルド職員からの評価は非常に高い。

 冒険者登録をして一年未満の新人が既に緑等級――五段階ある格付けの上から三番目――であることからもうかがい知れるだろう。


 ちなみに冒険者の格付けは下から赤、青、緑、黒、金となっており、いわゆる「板」――認識票(タグ)の材質もそれによって変わる。

 最下級の赤等級の冒険者は朱色の木片。ここから上がらずに冒険者を引退するものも多い。

 青等級のそれは藍色に染め付けした陶器の板。一人前、あるいはベテランとして認識される等級だ。赤等級と青等級が冒険者のほとんどを占める。

 緑等級は翡翠の小片を埋め込んだ銅製。このクラスになるとぐっと数が少なくなり、周囲の見る目も変わる。

 黒等級は表面を焼いて黒染めした鉄製。シンプルで美しい光沢を放つそれはまさに英雄(ヒーロー)の、一流冒険者の証だ。

 そして最高等級が金。時代を代表する英雄のみがランク付けられる等級だ。見た事のある人間によれば、神々と竜の姿を刻んだ黄金の薄板だという。


 余談ながら冒険者語でパーティのことを「箱」と言う。

 初級冒険者のパーティなら「赤箱」というわけだ。

 閑話休題(それはさておき)




 青いローブの魔法使いの少年が酒場に入って来た。

 酒場の中を見回すが相方の雷光銃使いの少女の姿はない。

 まだ寝ているのだろうかと思ったところで階段(誰が決めたのか冒険者の店は一階が酒場、二階が宿屋が決まりだ)から下りてくるのを見つけ、手を振る。

 少女が笑みを浮かべて手を振り返そうとしたところで少年はつかつかと歩いてきたギルドの女性職員に捕まった。

 そのまま首根っこを掴まれて連行されていく。


「・・・なんだありゃ」




 冒険者の酒場奥の一室。

 ヒョウエと、結局ついてきたモリィが並んで長椅子に座っている。

 その前に座ったのは余り友好的ではない雰囲気を出している中年の男性職員だった。

 珍しく身をすくめているヒョウエを見て、モリィはちょっと事情がわかった気がした。


「えー、ヒョウエさん。何で呼ばれたかはわかってますね?」 

「あ、はい」


 愛想笑いに冷や汗をたらしつつ、ヒョウエがコクコクと頷く。

 男性職員が諦めたように溜息をついた。


「何度も言ってますけどね、困るんですよ、こう言う事されると。

 我々もね、冒険者のみなさんをちゃんと評価して依頼を割り振らなきゃいけないわけです。成功した依頼、失敗した依頼を正確に把握できなければいけないんですよ。

 そのへんはおわかりでしょう?」

「まあそのそうなんですけど・・・」


 身を縮こまらせるヒョウエ。

 それを横目で見つつモリィが口を挟んだ。


「なあ、事情がよくわからないんだけどさ。結局こいつ何やったんだ?」

「・・・傭兵ですよ。難易度の高い仕事を受けたパーティに呼ばれて、助っ人として依頼を解決するんです」

「別に悪い事じゃねえと思うけど」

「報告書にちゃんと名前を載せればね! この人は名前を出さない代わりに依頼料を全部持っていくんですよ! おかげでどの(パーティ)がどれだけの実力があるか、正確に把握できないんです!」


 つまり報酬と引き替えに実績を譲り渡していると言うことである。前述のとおり冒険者には5つの等級があり、最下級の赤から青になるだけでも実入りは随分と違う。

 もう少しで昇進できそうな(パーティ)、うだつの上がらない(パーティ)が等級昇進の実績稼ぎのためにヒョウエにこっそり協力を頼むことが少なくないのだと言う。

 話を聞いたモリィが、男性職員と同じような呆れ顔になった。


「最近はね、緑等級の(パーティ)までヒョウエさんに依頼してる節がありまして・・・困ってるんですよほんとに」


 ハンカチで汗を拭きつつ嘆く男性職員。

 モリィにじろりと睨まれて、ヒョウエが更に身を縮こまらせた。


「何でそんなにがっつくんだよ。例の借金か?」

「ええまあ・・・痛い痛い痛い!」


 モリィに耳をねじ上げられて、ヒョウエが悲鳴を上げる。


「あたしと組んでる限りそう言うのは無しだ。わかったな?」

「いやですけど・・・いたたたたたた! わかった! わかりましたから!」

「よーし、忘れんなよ?」


 モリィがヒョウエの耳を離す。ヒョウエは耳を押さえて恨みがましげに相方を見上げるが、モリィは意にも介さない。

 男性職員が拝まんばかりの感謝の眼差しを送っていた。




「さて、それはそれとしてヒョウエさん・・・いえ、毎日戦隊エブリンガーに受けて頂きたい依頼があるのですが」


 ヒョウエがあ、やっぱりという顔をした。

 一方でモリィは一転して渋面になる。


「なあ、ヒョウエ。やっぱ名前変えようぜ。あたしこんな名前やだよ」

「確か変えるには手数料が掛かりますよ。モリィが払ってくれるならどうぞ」

「いくらだ?」

「白金貨一枚、1000ダコックです」

「はあっ!?」


 モリィが思わず絶句した。大体一月の生活費に相当する額である。

 ちなみに答えたのはヒョウエではなく男性職員だ。


「ちょっと待てよおっさん!? いくらなんでも法外だろ!」

「昔依頼人から金品をちょろまかしたり不誠実な仕事をしてはパーティ名を変えて同じ事を繰り返した連中がいまして・・・それを戒めるために設定されたんですよ」

「・・・・・・・・」


 気の利いた反論が思いつかずに二の句の継げないモリィ。

 さすがに名前変更だけでそれだけの大金を払うのは二の足を踏まざるをえない。

 一方でヒョウエはなるほどなー、などと頷いている。


「で、依頼はこれなのですが・・・どうでしょう?」


 職員が差し出した紙をヒョウエが一瞥する。

 羊皮紙の類ではなく、手すき和紙に近い植物原料の紙だ。

 内容は猫探し、依頼人の欄には王国屈指の大商会の名前が書いてあった。


「内容の割に報酬が破格ですね。さすがクリーブランド商会」

「会頭の孫娘の飼い猫だそうです。そこにあるように大至急かつ無傷でとのことで」

「王都全部から探し出さなきゃならないのに期日限定か。失敗したら後が怖いし・・・僕に回ってくるわけですね」

「ええまあ報酬さえ弾めばこう言う面倒な依頼を受けてくれるのは、うちではヒョウエさんだけなので・・・」


 再びハンカチで汗を拭く職員。


「で、断ったら降格と」

「赤等級に降格の上で功績なしからやりなおしになります」


 職員が苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

 ヒョウエという便利な人材を降格させるなど支部にとっては大損でしかない。

 だが規則違反を繰り返されては目をつぶるにも限度がある。これでも甘甘の大甘の裁定なのである。


「まあしゃーねーな。頑張れよー」

「薄情ですね・・・」

「だってアタシにゃ関係ねーし」


 肩をすくめるモリィ。完全に人ごとの態度だが、次の職員の言葉でその態度も一変する。


「あ、この依頼に関しては失敗するとモリィさんの評価も下がりますので」

「何でだよ?!」


 ばん、とテーブルを叩いて立ち上がる。

 そのモリィを職員は実に気の毒そうな目で見つめた。


「連帯責任です。昔はともかく現在はお二方はパーティの一員ですから・・・」

「お前ナニしてくれてやがんだーっ!」

「ぐえーっ!?」


 モリィが力一杯ヒョウエののど首を絞め上げた。肩を叩いてギブアップの表示をしているあたり、本気で苦しいようだ。まぁまぁと職員が慌てて割って入る。


「それにあれですよ、モリィさんの《目の加護》があれば随分はかどるのではと」

「くそ、しゃあねえな・・・まあ確かに報酬はいいしな」


 ヒョウエののど首から手を離し、モリィが溜息をつきながら頷く。

 咳き込みながらヒョウエも頷いた。


「ではこの依頼は毎日戦隊エブリンガーさんが受諾と言うことで。代表者のかたのサインをお願いします」

「げほげほ・・・はい、どうぞ」

「たしかに。毎日戦隊エブリンガーさんの依頼受諾を確認しました・・・なにか?」


 モリィが職員の方に視線を向けていた。


「いいんだけどさ・・・あんた、良く笑わずにこんな名前をすらすらと言えるな?」

「プロですので」


 奇妙な無表情で男性職員は答えた。

 六虎亭、正式には冒険者ギルド南門支部と呼ばれるギルドの直営店ですが、元々酒場で当時の主人が今も酒場部分の運営に携わっているので、当時からの屋号がそのまま通称になっているという設定です。

 冒険者の店にはギルド直営店のほかに個人営業の酒場に業務委託している委託店もありますが、二つの違いは大体正規の郵便局と簡易郵便局と思って貰えれば。

 受付がいて鍛冶場や商店など様々な施設が付属してギルド職員が常駐している直営店、酒場のおじさんが副業で冒険依頼取り次ぎなどをやってる委託店、という感じです。



ちなみにヒーローもので冒険者階級をたとえると以下のような感じ。適当なので本気にしないように。


赤:防衛組織のモブ戦闘員クラス。もしくは町のお巡りさんや一般兵士。

青:ヒーローではない防衛隊のネームドクラス。戦闘員と格闘できたり、怪人相手に時間稼ぎができるレベル。滝和也、立花藤兵衛や神経断裂弾装備の一条刑事、G3マイルドくらい。

緑:マイナーヒーロー。町一つか一地方くらいは救える。アベンジャーズやジャスティスリーグからオファーが来る。日本だと琉神マブヤーなどのご当地ヒーローか、生身で怪人を倒せる倉間鉄山将軍や赤心少林拳の玄海老師。

黒:ヒーロー。国一つを救える。アベンジャーズやジャスティスリーグで主力を張れるレベル。日本なら大半の戦隊やライダー。

金:世界を救った生ける伝説。スーパーマン、バットマン、キャプテンアメリカ、(近年の)アイアンマン、仮面ライダー一号、ゴレンジャー。

それ以上:ウルトラマンとかギャラクタスとかそのへん。

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