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毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~  作者: ケ・セラ・セラ
第三章「こんな世界なんて」
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03-16 酒場"マロニー"

 王城から南門まで、王都の中央を貫く中央大通りを越えて、王都の東南部。

 比較的中流に近い層が住む地区にその酒場はあった。

 「マロニー」と下手くそな文字で看板が出ている。

 中に入ると赤ら顔の、頭のてっぺんが綺麗に禿げた親父が二人を見た。


「らっしゃい・・・うちのエールは子供にはきついぞ。それとも飯か?」

「いえ、ちょっと聞きたいことがありまして」


 ヒョウエが親指でコインを弾く。

 ちりん、と音を立てて銀貨がカウンターに転がった。

 親父が銀貨を取って本物なのを確かめる。


「・・・何を聞きたい?」

「20年くらい前に、ここに楽士がいたと聞きました。やせぎすでこげ茶色の髪で、悪魔の顔のついた奇妙な楽器を弾いていたと」

「ああ・・・いたな。息子と娘二人と、四人で上の部屋借りて住んでたよ。

 8年くらい前に怪我して弾けなくなって、引き払ってそれっきりだ」

「ふむ・・・部屋を見せて頂けます?」


 更に銀貨を二枚。


「金を払ってくれるなら構わんよ。元々貸すための部屋だ。好きなだけ見ていってくれ」


 肩をすくめて店主がコインをしまい込み、鍵束を取りだした。

 身振りでついてくるように指示して、二階への階段に向かう。

 頷き合って、ヒョウエとカスミは後についていった。


「ここだよ」


 店主が鍵束で部屋の扉を開ける。

 一歩下がった店主の横を通り、ドアを開ける。

 その瞬間白い光があふれ出し、世界を塗りつぶした。




 部屋の中は、ありがちな宿屋、あるいは下宿の一室だった。

 ベッドが一つ、テーブルが一つ、椅子がいくつか。

 今のハーディ達の部屋と大して差はない。

 そこに、一組の家族がいた。


 30絡みの痩せた男が一人。ハーディによく似た8歳くらいの少年、ソアラとレアに似た幼女たち。

 まかないであろうスープとパンだけの食事だが、楽しそうに笑っている。

 食事を終えて片付けようとしたとき、ソアラとレアが父親の演奏をせがみ始めた。


「ねえねえお父さん、あくまのおじさんー」

「あくまのおじさん・・・私も聞きたい・・・」

「悪魔のバイオリンだよ、ソアラ、レア」


 ハーディが苦笑して訂正するが、ソアラは自説を曲げない。


「だっておじさんじゃない! あくまのおじさん!」


 父親が笑いながら悪魔のバイオリンを手に取る。


「まあいいけどな、おじさんで。何が聞きたい?」

「たのしいやつ!」

「えーと、めがみさま・・・」

「『収穫の女神(タリナ)の踊り』か。わかった」


 演奏が始まる。

 軽快なメロディと、チリンチリンという涼しげな音。そこに挟まるトントン、という太鼓の音。

 子供達三人が手拍子を打ち、それに合わせる。


 渋みのあるいい声で父親が歌い出す。

 子供達も、つたないながらそれに合わせて歌う。

 父も、息子も、娘たちも。

 全員が楽しそうに笑っている、幸せな家族の情景。


「・・・」

「・・・」


 だがヒョウエとカスミはその先を知っている。

 この僅か二年ほど後の彼らがどうなっているか。

 更にその後に何が起きるのか。

 幸福の情景を見つめながら、二人の表情は沈痛だった。




 光が走り、過去の幻視(ヴィジョン)が消える。


「え、これは?」

「・・・おや」


 光が収まった後、酒場の部屋は消えていた。酒場の主人も。

 周囲の情景は一変しており、宮殿か貴族の館の廊下のようであった。


「ここは・・・?」


 油断無く周囲を見渡すカスミに、少し憂鬱そうな顔でヒョウエが答える。


「ジュリス離宮・・・僕の実家ですよ」

「・・・!」


 珍しく、カスミが目を丸くした。


「失礼しました。しかし何故? ここはハーディ様の心の中だと思っていましたが」

「いえ、想定していてしかるべきでしたが、コアが見せるのは取り込んだ人全員の心の情景なんです。つまり、僕やカスミのそれが映し出されても何ら不思議はありません」

「そうですか・・・」


 固い顔でカスミ。

 それには気付かないふりをして、ヒョウエが言葉を続ける。


「とにかくここも歩き回ってみましょう。見かけが違うだけで、ここもコアの中であることには違いありません。とにかく動いていれば中心に近づくはずです」

「はい」


 カスミが頷くのを確認してヒョウエは歩き出した。




 しばらく無言で歩く。

 離宮とは言え王都の一街区に匹敵する面積を持つこの建物は、敷地だけでも500m四方の広さがある。時折すれ違う使用人たちが、ヒョウエに恭しく頭を下げていた。


「・・・どちらへ向かっているのですか?」

「僕の部屋です。とりあえず」


 ヒョウエの部屋に向かう間、白い光が二度走った。

 書庫に引きこもる本の虫。

 王族に義務づけられた様々な技術の習得。

 サナやリーザとの日常。

 子供ながら王族故の人付き合いの煩わしさ。

 そんな情景が流れていく。


「・・・」


 それらの情景がなかったかのように、ヒョウエは足取りをゆるめずに先に進む。

 そしてダンジョンの奥底でモリィも見た、友達を見殺しにした少年の慟哭。


「・・・・・・・・・・・・・・!」

「気にしないで進んで下さい。大丈夫です」


 凄惨な情景に思わず立ち止まるカスミを促して、ヒョウエは進む。

 カスミが慌てて後を追った。


「ここです」


 ノックもせずに扉を開く。自分の部屋なので当然だが。


「お帰りなさい、ヒョウエく・・・様。そちらの子は見た事がないですけど・・・お客様のお付きの人?」


 10才くらいのリーザが頭を下げてヒョウエたちを迎えた後、首をかしげた。

 ヒョウエが16才に成長している事には違和感を抱かないらしい。


「リーザ。私たちだけなのですから、いつもの調子で構いませんよ」


 涼やかな声が部屋に響いた。


「はい、奥様」


 リーザが照れたように笑い、対照的にヒョウエが身を硬くする。

 部屋の奥に一人の貴婦人が座っている。百人が百人絶世の美女と言ってはばからないだろう、そんな女性だ。傍らにはリーザと同じ髪色の女官。後ろには今より少し若いサナ。


「どうしました、ヒョウエ? あなたの部屋なのです、遠慮せずに入って来なさい」


 ヒョウエの母、ローラ・ラバン・ワルツ・ドネがにっこりと微笑んだ。

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