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毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~  作者: ケ・セラ・セラ
第一章「怪物退治の専門家」
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01-05 |地竜《リンドヴルム》

 ぴくり、とヒョウエの眉が動いた。


「じゃあ行こうぜ」

「あー、すいません、ここでちょっと待っててくれます?」

「え、何でだよ」

「野暮用です」


 ダンジョン内での排泄行為のことである。

 モリィが顔をしかめた。


「しゃーねーな。さっさと済ませてこいよ」

「すいません」


 小走りで来た通路を戻り、角を曲がってヒョウエの姿が消える。

 モリィが手持ちぶさたに待っていると、10分くらいで戻ってきた。


「お待たせしました」

「おし、んじゃ行こうぜ」


 二人は再び歩き出した。

 そして30分後。


「すいません、野暮用で・・・」

「またかよ!?」




 その後も(何度かヒョウエが「野暮用」で姿を消したのを除けば)快進撃は続いた。

 ジャイアントリザードや洞窟ライオンと言った巨大生物、トロールなどの亜巨人族なども出現したが、いずれも危なげなく屠ることが出来ている。

 キマイラやマンティコア、プリズミーア・キャットと言った魔獣に属する生物も出現するが、炎や尻尾の毒針と言った切り札をヒョウエの念動衝撃によって防がれ、光を操るプリズミーア・キャットに至っては真っ暗な洞窟の中だ、単なる山猫と大差はない。

 接近も出来ずに雷光銃の正確な射撃を受けては、モンスター側に勝てる道理がなかった。


 二人は洞窟の先、どんどん深くへ降りていく。

 六時間ほど探索を続けた後、さしわたし100mはありそうな広い空洞に出た二人は休息をとることにした。

 都合の良いことに、地面は砂地で大きなでこぼこもない。


 先ほどと同じように五徳と鍋を出し、指先からの炎で湯を沸かす。

 淹れた香草茶をすすり、干し肉やナッツ、固く焼き締めた乾パンや干しアンズなどをゆっくりと丁寧に咀嚼して腹に収めていく。

 自分が意外に空腹だったことにモリィは気付いた。


「なんつーか・・・味気ないと思ってたけど、結構うまいもんだな。

 この干しアンズなんかこんなに甘かったか?って思うぜ」

「空腹は最高のオードブルですからね。それにやっぱり初めてのダンジョン探索ですし、色々疲労が溜まってるんでしょう」

「・・・だな」


 会話が途切れる。しばらくの間、二人の咀嚼音だけが周囲に響いていた。




 ずしん、と。

 モリィが最後の干しアンズを口に運ぼうとしたところで洞窟が震動した。


「うわっ、と!?」


 手からこぼれた干しアンズを、素早くヒョウエが空中でキャッチ、指で弾くとアンズはモリィの口に飛び込んだ。


「むぐっ」


 そのまま残っていた香草茶を地面にぶちまけ、念動でカップとまだ熱い五徳と小鍋を乱暴にかばんの中に戻す。


「大物です。急いで」


 そのまま浮かせたかばんを斜めにかけてヒョウエが立ち上がる。

 アンズを雑に咀嚼して飲み込みながら、無言でモリィが頷いた。

 ヒョウエの腰からひとりでに九つの金属球が飛び出し、周囲を回転し始める。


 モリィが脇に置いた雷光銃を掴んで立ち上がるのと、震動の主が姿を現すのが同時。

 ヘビのような長い体、銀色に輝く鱗、一対の巨大な前足のみを持ち、後ろ足を持たない。

 角とたてがみを備えた竜の如き頭部。


「・・・地竜(リンドヴルム)!」


 らんらんと赤く光る目が10mを超える高さから二人を睨んでいた。




『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

「うわっ!?」


 咆哮が轟いた。

 モリィが思わず両手で耳を押さえる。

 真なる竜の咆哮(ドラゴン・ロアー)のように魔力を帯びているわけではないが、それでも20mサイズの生物が上げるそれは、人間大の生物にはほとんど物理的な衝撃となる。

 脳を揺らす震動に耐えつつ、竜の喉元を狙って雷光銃を連射する。

 閃光が銀の鱗で弾けるが、全く効いた様子はない。

 続けて前足の付け根を狙ってヒョウエの金属球が飛んだ。


『GY!』


 こちらはそれなりに効いたらしく、地竜が短く苦悶の声を漏らす。

 ヒョウエが金属球を手元に戻し、再び加速してぶつけようとした。

 モリィが雷光銃に念を込め、今までのように連射するのではなく、エネルギーを集中させようとする。


 その刹那、地竜が動いた。

 ヘビのように下半身をくねらせ、加速時間無しにトップスピードで小さな人間たちに襲いかかる。

 巨大なビルが瞬間移動して迫ってくるような感覚。


「どわっ!?」

「失礼!」


 モリィの体が浮かび、ヒョウエと共に横っ飛びに飛ぶ。

 モリィのつま先から1m程先で、巨大な口ががちんと閉じた。

 たった今まで二人がいた場所を蹂躙し、地面をこすりながら地竜が通り過ぎて二人の方に向き直って止まる。


「ああ、なるほど。ここの床が平たかったのって、あいつが移動するからだったんですね」

「言ってる場合か!」


 ふわり、と二人が地面に降りた。

 いつの間にかヒョウエの回りを周回する金属球が七つに減っていた。

 ヒョウエが杖をくいっと動かすと、地面に落ちていた金属球が二つ、主の周囲に戻ってくる。

 地竜はやや警戒を深めたのか、いつでも突撃できるように前傾しつつ、こちらをうかがっている。


「どうします?」

「でかいのぶちかます。10数えてくれ」

「わかりました」


 雷光銃のつまみを回し、出力を最大――上限無しに合わせ、地竜に向けて構え直す。

 雷光銃の銃口に光が灯り、稲妻が走り始めた。

 十秒間雷光を貯め、自前の魔力のありったけも注ぎ込む、全力のチャージ攻撃だ。


「!」


 視線の先、雷光銃のチャージに合わせるように竜の銀色の鱗が帯電を始めていた。

 かすかな火花だったそれが、見る間に光度を上げてバチバチと唸る稲妻になる。

 明らかにまずいことになりそうな様子に、モリィが顔を歪める。


『GOA?!』


 地竜の頭に火花が散り、弾かれたように横に振れた。

 加護を受けたモリィの視覚は、その直前に地竜の頭部にぶつかった九つの小さな物体を正確に捉えている。

 さすがにゴブリンやスピア・リザード相手のように貫通はしないが、それでも銀色の鱗を砕いて肉にめり込んでいた。


(ナイスだヒョウエ!)


 視線は竜から動かさないまま、獰猛な笑みを浮かべる。

 更に帯電を激しくする地竜の燃えるような瞳と、視線が空中でぶつかる。


「くたばりやがれっ!」

『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』


 人間と地竜の咆哮が轟くのが同時。

 雷光銃の銃口から、名前の通り雷光を帯びた光線が放たれる。

 同時に地竜の体からもまばゆい稲妻がほとばしる。

 大広間が閃光に包まれた。




「へっ、見たか・・・な!?」


 稲妻の爆発が消えた後、一瞬モリィは自分の目を疑った。

 見えたものが信じられず、目をまばたかせるが現実は変わらない。

 地竜は無傷だった。


「んな馬鹿な! あれは大岩だってブチ抜けるんだぞ! いくら竜とは言え・・・」

「"リンドブルムの稲妻"ですね。地竜はブレスは吐きませんが、稲妻を広範囲に放つ事ができるそうです――雷光銃で相殺しなかったら、僕たちも丸焼きになってたでしょうね」


 恐らくは二人が身軽に攻撃を避けたのを見て、爪や牙では捉えきれないと思ったのだろう。こうした亜竜の知能は動物並みのはずだが、少なくとも愚かではないようだった。


「で、どうする。そう言う事なら、もう一発来られたらやべえぞ。っつーかいきなり強くなりすぎだろう、モンスター」

「・・・恐らくは守護者(ガーディアン)なんでしょうね」

「ダンジョンの核の手前にいるってあれか」

「はい」


 地竜は稲妻を放つ前の体勢のまま二人を睨んでいる。

 いつでも飛びかかれる姿勢ではあるが、帯電はしていない。

 銀の鱗もくすんでいる。


「どうやら連発はできないみたいですね」

「連発されてたらこっちが死ぬっての。今のうちに魔力補填頼めるか?」

「はい」


 ヒョウエが十秒ほど銃把を握ると充填は完了した。雷光銃を受け取ったモリィが水晶目盛を確認して視線を地竜に戻す。

 こころなしか、先ほどより鱗の輝きが戻ってきている気がした。


「で、どうするよ。お前ほど早く充填できないみたいだし、もう一発撃ってみるか?」

「やめたほうがいいでしょうね。

 そもそも竜やその眷族、もっと言えば魔力の強い存在には魔法が効きにくいですから。

 雷光銃も機械的に再現しているだけで、一種の魔法には違いありません」

「そうなのか?」

「強い魔力は魔力の干渉を打ち消すんですよ。高密度の魔力を練れる術師や、高い魔力を有する生物に魔法が効きにくいのはそう言う事なんです」


 地竜に目をこらす。

 鱗はいよいよ輝きを取り戻してきていた。


「じゃあお前のタマっころか? でもあれも大して効かなかっただろ」

「ええ、だから切り札を一枚切ります。今度は僕に十秒ください」

「稲妻撃ってきたら相殺しろって事だな」

「話の早い人って好きですよ」

「こきゃあがれ」


 ヒョウエの周囲を回っていた金属球のうち8つが腰のポーチに戻る。

 残りの一つを胸の前に浮かべ、それに左手をかざす。


「|地の星よ《Shanaishchara》」


 金属球に光る文字がびっしりと浮かび上がった。

 モリィにルーンの知識があれば、これが「大地」を表すそれであると気付いたろう。

 ヒョウエが左手を持ち上げ、頭上に浮かんだ金属球が巨大な剣の形を取った。

 見る見るうちに巨大化するそれは、刃渡り10mを越えて更に巨大化を続ける。


『GO・・・GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』


 緊張に耐えきれなくなったかのように地竜が動いた。

 稲妻をフルチャージするまで待っていれば死ぬと直感したからかもしれない。


「オラァァァァァッ!」


 高速で突進してくる地竜に再びモリィがチャージした雷光を放つ。

 地竜の帯びる稲妻が雷光と打ち消し合い、鱗から輝きが消える。


(つるぎ)よ! 飛べ!」


 洞窟が揺れた。

 それでも勢いを止めずに吶喊してくる巨竜の胸をヒョウエの投げた巨大な剣が貫き、その勢いのままに吹き飛ばし、洞窟の壁に縫い付ける。

 僅かにピクピクと動いていたそれもすぐに動きを止め、地竜はがくりと首を垂れた。



「すっげ・・・」


 両手で雷光銃を構えたまま、モリィはそれを呆然と見上げていた。

 全長20mの巨大な蛇竜を岩壁に縫い付ける、刃渡り20mの巨大な剣。

 やがて地竜の姿がすうっと薄れ、直径60cm程の巨大な魔力結晶がごろごろっと転がる。

 ゴブリンやオーガのものとは違い、表面は滑らかで真球に近い綺麗な形をしていた。


「おおう・・・」


 再びモリィが感嘆の声を上げる。

 "守護者"や竜の落とす巨大な魔力結晶。

 話に聞いたことはあったが、聞くと見るのとでは大違いだ。


 僅かに遅れて洞窟の地面に1m程の剣のようなものが落ちて刺さった。

 銀色に輝くそれは先ほどの地竜の角の一本。地竜の強い魔力が凝固し物体化したもの。

 外見通り"地竜(リンドブルム)の銀角"と呼ばれるそれは、最高級の拾得物(ドロップアイテム)のひとつだ。

 何でもこれを高値で買い取って発電機にし、電気文明をマルガム大陸にもたらそうとする冒険者族の一派があるそうだが真偽は定かではない。

 閑話休題(それはさておき)


「ふうっ」


 地竜が消滅したことを確認すると、ヒョウエが肩を落として息をついた。

 右手の杖を動かすと巨剣が壁から抜け、スルスルと縮んで元の金属球に戻る。

 モリィの目はその周辺にキラキラした何かを捉えたが、すぐ空気に溶けて消えた。


「大丈夫か?」

「大した事はありません。ただ精神集中が必要なので、そういう意味では少し疲れましたね」

「なんだったんだ、あれ?」


 ヒョウエの左手に戻った金属球に目をやり、モリィが訊ねる。


「『大地の剣』と言ったところでしょうか。

 九つの球にはそれぞれ星辰に由来する別の呪法を刻んでありまして。これは『|地の星《Shanaishchara》』、魔力を注ぐと見せかけの質量が増加して原子構造の組み替えを――」

「・・・・・・・」


 モリィの顔を見て、ヒョウエが言い方を変える。


「まあつまり魔力を注げば大きくなったり剣に変わったりするわけです。

 後はそれを念動で投げつけるだけ。これ自体は純粋な物理攻撃ですから、魔力の逆干渉にも影響を受けません。

 単純に力一杯ぶん殴れという敵に対してはこれが一番ですね」

「なーるほどなあ、大したもんだ」


 感心してうんうんと頷くモリィ。


大魔術師(ウィザード)ですからね!」


 ヒョウエが胸を張った。




 取りあえず銀の角はヒョウエのかばんに(サイズを無視して)しまい込まれ、かばんに入りきらない魔力結晶はヒョウエの念動で持っていくことになった。

 万が一後から他の冒険者が来た場合、持って行かれても文句は言えないのがこの業界の不文律だ。


「けどこんな重いもの持ってってお前は大丈夫かよ?」

「魔力消費という点で言えば問題はなく。同時に使える金属球が一つ減りはしますが、まあ問題ないでしょう。それにこの先はモンスターもいないでしょうからね」

「あ、そっか」


 "守護者(ガーディアン)"はダンジョンの核を守る最強のモンスターだ。

 そのダンジョンの中では群を抜いた強さを持っているし、複数いることもまずない。

 そして最後の守りとしてコアの直前のエリアに配置されるのが普通だ。

 二人が話しているのはそういうことである。

 頷き合うと、二人は歩き出した。

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