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毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~  作者: ケ・セラ・セラ
第一章「怪物退治の専門家」
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01-03 《加護》

「さて、そろそろ行きましょうか。何でしたら出口まで送っていきますけど」

「いや・・・お前が良ければだけど、しばらくパーティ組んでくれねえか?

 死んだ仲間の遺髪と遺品くらいは回収してやりてえ。

 雷光銃はからっけつだけどお前が疲労回復してくれたから十発くらいは撃てるだろうし、ナイフも投げられる。罠や鍵、忍び足、聞き耳も多少は心得があるぜ。

 遺品の回収に協力してくれるなら、ぶんどり品はお前の総取りでいい」


 蓮っ葉な外見にも似ず、殊勝に頭を下げるモリィ。

 立ち上がって鍋や五徳を片付けていたヒョウエの手が止まり、ふむと頷く。


「いいでしょう。《加護》は何か持ってます?」

「《目の加護》だ。遠くのものも細かいものも見えるし、闇も見通せるぜ・・・まあ、余り役に立たなかったけどな」


 やや自嘲気味に肩をすくめる。

 再びふむと頷いて、ヒョウエがちょっと考え込んだ。


 《加護》とは知的種族の守護神である《百神》が授ける様々な恩恵だ。

 怪力や鋭い感覚、翼や硬い皮膚のような変異、何らかの才能や魔法的能力などその種類は多岐にわたり、程度も人によって違う。

 冒険者を志すものは何らかの強力な《加護》を持っている事が多かった。


 なおもっとも多く授けられる《加護》は《健康の加護》であったりする。

 閑話休題(それはさておき)


「それではパーティ成立って事で、あらためてよろしくお願いします」

「ありがてえ、助かるぜ」


 ヒョウエの差し出した手をモリィが笑顔で握る。臨時パーティの結成であった。


「じゃあ、ちょっとその雷光銃貸してください」

「? ああ、まあ、いいけどよ」


 いぶかしみながらもモリィが雷光銃を抜き、手の中でくるりと一回転させてグリップの方をヒョウエに差し出す。

 受け取ったグリップを握ってヒョウエが目を閉じた。


「うん・・・?」


 銃を握るその手がぼんやりと光ったように見えて、眉を寄せるモリィ。

 次の瞬間、その目が驚きに見開かれた。


 雷光銃の蓄えた残り魔力を指し示す水晶目盛(インジケーター)が、急速に上昇していく。

 十数秒で目盛は上限に達し、ヒョウエが目を開いた。

 今度はヒョウエがくるりと銃を一回転させ、グリップをモリィに差し出した。


「どうぞ」

「あ、ああ・・・嘘だろ、マジで満タンになってやがる」


 雷光銃に限らず古代の魔力遺物はそれ自体に魔力を蓄える機能がある。

 周囲の魔素(マナ)を少しずつ吸収して自然に回復する事もできるし、使い手が魔力を注入することでチャージすることも出来る。


 雷光銃の場合、自然回復に任せた場合は満タンになるまで十日、モリィ一人だと他に何もせずに専念して丸二日。

 それをこの少年は、たかだか十数秒で満タンにしてしまった。

 しかも疲労した様子は一切見せていない。およそ常識外れの魔力生成能力と言えた。


「そうか、お前何か魔力がらみの《加護》があるのか? それもとびきり強力なのが」

「ま、そんなところです。僕と組んでいる間は雷光銃の電池切れは心配しなくていいですよ」

「でんち?」

「魔力を溜めるところです」


 そう言うとヒョウエは荷物をかばんにしまい込み、右肩から斜にかける。

 明らかにかばんより大きい毛布がするすると入っていったことに、装備を確かめていたモリィは気付かなかった。




「さて。じゃあ、まずお仲間の遺品の回収から行きましょうか。遺体の方は、余裕があれば帰り際に」

「え? そりゃありがたいけどよ、四人もいるし一人は鎖かたびら着たでかいおっさんだぜ。あたしたち二人がかりでもちょっと骨だぞありゃ。それとも何か魔法でどうにかするのか?」

「もちろんですとも。何しろ僕は"大魔術師(ウィザード)"ですよ?」


 どことなく自慢げなヒョウエに、モリィが微妙な顔になる。

 と、ヒョウエが腰のポーチから大きなクルミほどの金属製の球体を取り出した。


「うん・・・それはさっきの?」

「ええ、あなたを救った武器ですよ」


 ふわり、と金属球が手から離れて浮かぶ。

 左手を軽く振ると先ほども聞いた風切り音を立てて金属球が勢いよく飛び、洞窟の岩壁に激突して破片を飛び散らせた。


「おー・・・」


 目を丸くするモリィの前で、金属球が壁から離れて再びヒョウエの手に収まった。


「こんな感じで、遺体も四人くらいなら運べると思いますよ。装備含めてもせいぜい500kgくらいでしょうし」

「あーまあ、そんなとこかな?」


 金属球を腰のポーチに戻し、ヒョウエが頷いた。


「じゃあ行きましょうか。道はわかります?」

「何となくはな。わかんなくても多分たどれるから心配すんな」


 言いながらモリィが歩き出す。

 ふうん?と首をかしげるがそれ以上問いはせず、ヒョウエは後について歩き出した。




 モリィを先に、ヒョウエが後になって歩いて行く。

 ヒョウエの杖の先に浮かぶ魔法の光は松明並――常人なら10m先くらいまでどうにか見通せるか、という程度の明るさになっている。


「もう少し明るくてもいいんじゃねえか? お前が不便なけりゃそれでいいけどよ。後、あたしは地面を注意してるから、お前も敵が来ないかどうか気を付けといてくれ」

「なるほど。でもそれならこの光量で足ります?」

「まぶしいくらいさ。心配しなくていいよ」

「中々便利な《加護》ですねえ」


 モリィがにやっと笑うのがわかった。


 "足跡追跡(トラッキング)"。

 狩人や野伏り(レンジャー)などが身につけている名前の通りの技術だ。

 地面の足跡、折れた枝、砕けた石、糞や血痕などの痕跡を辿って相手を追跡する。


 このダンジョンは岩の洞窟を模した景観をしていたが、それでも地面には多少の土が堆積していたし、ところどころにモリィ自身が落とした血痕もある。

 ロウソクよりマシな程度の光の中でも、加護を持つモリィの目にはゴブリンや自身の足跡、そして血痕が光り輝くように目立って見えた。




 さらに十分ほど歩いたところで二人は足を止めた。

 ヒョウエが身を翻し、モリィと背中合わせになる。


「参ったな、挟み撃ちかよ」

「前から狼くらいの四足歩行生物、後ろからは・・・30センチくらいで地面を這ってますし、これは虫ですかねえ?」

「意外と耳が良いな。それとも魔法か?」

「そんなところです。じゃあモリィさんが前、僕が後ろで」


 油断無く雷光銃を構えながらモリィが頷いた。


「頼む。ちんまいのはあんまり相性がよくねえ。後虫は苦手だ」


 そこで思い出したようにモリィが笑った。


「それとな、ヒョウエ」

「なんです?」

「モリィでいいぜ」


 背中合わせにヒョウエも笑う。


「了解、モリィ。3、2、1で光を強めますよ」

「おう」

「3,2、1、ゼロ!」


 突然、洞窟の中がまばゆい光に満たされた。

 薄暗がりが真昼のような明るさに取って代わり、二人の前後で悲鳴が上がる。


「ギャンッ!」


 前方からのそれはやはり狼のもの。

 胸が異常に膨らんではいるが、各部の特徴は紛れもなく狼だ。

 先頭の数匹がまともに光を見てしまったのか、目を閉じて悲鳴を上げていた。


 "ベローズ・ウルフ(ふいごオオカミ)"。別名"ダーク・ブリット(闇夜のつぶて)"。

 胸が異常に膨らんだ、ずんぐりむっくりしたユーモラスな体とは裏腹に、初心者殺しとして恐れられるモンスター。

 圧倒的な肺活量で石、正確に言えば分泌物を固形化した弾丸を撃ち出す、言わば生きた空気銃のような怪物だ。

 その射程は約50メートル。5メートル以内なら板金鎧を貫通するほどの威力がある。


 闇にまぎれて忍びより、射程内に入ったところで一斉に弾丸を発射。

 ひるんだ獲物に一斉に襲いかかって餌食にする。

 だがこの時ばかりは相手が悪かった。


「ギャブッ!?」


 悲鳴が断末魔に変わる。

 雷光銃から放たれた閃光が次々とベローズ・ウルフどもを貫いた。

 たとえるならリボルバーの撃鉄を指で弾いて高速で連射するファニング・ショット。

 数秒の間に十数発の閃光が走り、何をすることも出来ず狼の群れは全滅した。


「へっ」


 会心の射撃にモリィの頬が緩む。

 普段はここまで贅沢に乱射は出来ないが、今はヒョウエという無限の弾倉がある。


「おみごと」

「まあ制限なしに撃てるならこんなもんよ。つーかお前の方はそんなのんきに・・・ひえっ!?」


 得意げに振り向いたモリィの顔が愉快な感じにひきつった。




 狼の悲鳴と時を同じくして後方から聞こえて来たのは無数のギチギチギチ、というきしり音だった。

 体長30センチほどの肉食甲虫、ジャイアント・カラビッド・ビートルの大群。

 一言で言えば巨大オサムシ。

 黒い金属質の甲殻で身をよろい、集団で獲物に飛びかかって喰らい尽くす。


 その殺人甲虫が、高さ2m程に上から下までびっしりと重なって、ぎちぎちと牙を鳴らしていた。

 虫が苦手な人間にとってはあまり直視したい光景ではない。


「なんだこりゃ・・・見えない壁?」

「ええ。念動の術です。こいつらたかられると危ないですからね。まとめて――」


 言いつつ、伸ばした左手をゆっくりと握る。

 壁状にたかっていた巨大虫たちがひとかたまりになり、球体になって宙に浮かんだ。

 ギチギチと牙を鳴らす音が、ギギギギギ、と悲鳴のような甲高い音に変わる。

 ヒョウエが拳を握っていくのにつれて球体も圧縮され、悲鳴も高くなる。


「うえっぷ」


 モリィが慌てて後ろを向くのとほぼ同時に、湿った物が多数潰れる音がして虫の声がやんだ。

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