〜第1章〜 7話
公爵さんが予約しているレストランは、馬車ですぐのところにあった。
レストランについて馬車を降りると、レストランから男の人が出てきて、「ルトルバーク公爵様でいらっしゃいますね。ご案内いたします。」と言った。お店の人に連れられてレストランに入ると、一番奥のスペースに私たちの席が用意されていた。店内を進んでいくと、「えっ…」という声が聞こえた。その声の方を見ると、ビオラがこちらを見て立ち尽くしている。その奥には王太子の姿も見えた。一瞬ビオラと目があったが、私は知らん顔をしてフイッと顔を背ける。
顔を背けた私はビオラがその時悔しそうな顔をしていることになんて気付かなかった。
私はそのまま用意された席に座る。公爵さんと夫人も座り、奥からシェフらしき人が出てくる。
「ルトルバーク様、ようこそお越しくださいました。ここハルぺノンの店長、ザック・ナーザーと申します。」
わざわざ店長さんが来て挨拶してくれると、公爵さんは私に目配せをしてきた。私に返事をしてみろと言っているんだろう。私は、馬車の中で公爵さんから聞いたことも踏まえて、返す言葉を考える。
「こちらこそ、いきなりの予約に対応してくださってありがとう。お料理楽しみにしておりますわ。」
公爵さんは満足そうに頷き、夫人もにこにことこちらを見ている。
それにしても、ゲームではなぜ描写が一切なかったのかと不思議になるくらいベルリディアは両親に愛されている。
ゲームでは、ベルリディアの両親はほんのちょっとしか出ていない。
例えば、悪役令嬢が断罪されるときに出てきて“お前はもうルトルバークの一員ではない”と言ったりするくらい。
でも、今私に向けられている2人の視線はそれこそたった1人の愛娘を溺愛しているお母さんとお父さんだ。
さっき挨拶に来たナーザーさんも微笑ましそうに見ていた。
このことは、私が転生した当初全く想像してなかった未来の1つ。
ま、転生してからまだ1ヶ月と経ってないんだけど。
公爵さんと夫人が喋っているのを眺めていると、早速1品目が出てきた。
まずは前菜。実は私、コース料理で何が出るかわからないんだよね。当然マナーもわからないわけで。
公爵さんと夫人を見ながら、見よう見まねで食べていく。
その後はスープ、ポワソン、ソルベ…と続いていき、デザートまで出てきた。デザートはケーキだったんだけど、なんだかとてもキラキラしている。気になった私はそれまでろくに聞いていなかった料理の説明をちゃんと聞くことにした。
「こちら、レイザーテ地方で採れたメロンを使ったスフレチーズケーキでございます。勝手ながら、ご令嬢とご夫人のケーキにはお二人をイメージしたフラワーキャンディを飾らせていただきました。公爵様のケーキにはスズランのフラワーキャンディを飾らせていただきました。」
キラキラしたものの正体は飴細工だったらしい。
ケーキを食べ終わると飲み物と焼き菓子が出てきた。
公爵さんはコーヒー、夫人と私は紅茶。
両方いただいたあと、まだお買い物は終わらないということで、すぐにレストランを出ることにした。