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パンガム伝  作者: のり子
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0. パンガムは木造立体都市である

 現代、ワールドザワールドの中心はパンガムという木造立体都市である。 その謂は木造建築が積み木のように積み上がり、ほとんど立方体に都市ができあがっていることによる。 三百メートルを超える巨大な正断層の壁を補助にして都市は発展した。立方体にっと得たが崖に寄りかかるように育ったので、遠い西から見れば立方体に見えなくもないが、東から見るとお椀型に見えるかもしれない。


 さて都市の風景はというと実に雑多で言い表すことができない。家々ががちゃがちゃと積み重なっているのだが、その成り立ちはこの上ないほどに無計画で、ただある一人のカムロという建築家の「家の上に家を建てたらいいんじゃね?」という発想からずるずると続いていき、もう百棟は積み重なったような家の塔が数百と立ち並んで、その後、交通のいいようにとそこら中に思い立った者から自由に橋をかけて行ったから、今では納豆の中のように、縦横上下に空中回廊が塔を繋いでいる。 全体にかけて、つごう三階、政府の作った全体階層があって、この階層だけは激しい空中回廊、階段の行き来なしに、地面と平行に、パンガム内のどの塔へでも歩いてゆける広い床が設定されている。場所によっては、噴水なども設定された息のつける広場もあったりする。だからこれらを地面から数えて、地面、一階、二階、三階、と簡単に呼ぶ。政府が全体階層を拵えてから二十五年して、三角の女神が垂直式移動部屋を発明した。これは市民に「上下」と呼ばれる便利な移動手段でパンガムの至る所に設置されたが、これは家々の塔の頂上とほぼ同じ高さまである鉄棒に、円形の乗り場をつけ、外開き式のドアを開けてそこに乗ると、錘と金属ロープの関係でその乗り場が上に下に、自在に動くというものである。これによって何十何百とある階段を使ったり、急な坂の橋を探して遠回りしながら別の階層に行く必要がなくなった。ただ移動中にうっかり真ん中の鉄棒に触れたり、寄りかかったりしてしまうと、肌が焦げ落ちてしまい、不注意から手のひらの皮膚をなくしてしまう者が、設置当初わんさかとでた。それに対する処置は、全くなされないし、今後もなされることはないだろう。


 ワールドザワールドはこのパンガムという立体木造都市のほか、その南には広大な畑と、そこから東にずれて神の森、その森を北に抜けると砂漠地帯がある。畑、神の森、砂漠のどれも海に面している。


 パンガムには全てがあると言われている。棟をなす家々はどれも雑多で個性的で、古びた木製の手すりのある家、洗濯物を干す家、真っ白に塗られ西洋風に装飾された家、あるいは、蔦がおおう家、鳥かごだらけの家、國旗を掲げた家、窓から紙がばらばらと風に飛ばされている家、赤い家、歯車の家、船のような家、きれいな家からきたない家まで。それら家家はパンガムの女神曰く「太古の極東の都市、日本帝國の文化に近しい」のだが、その理由はこの國パンガムの成り立ちにまで遡ることができると言う。 マンジュ大学臨時教員で考古学者のフルフ・ルソーバは伝承神話を調べ上げそのことを明らかにした。『受容された建築様式の形態とその歴史』ではそのことが詳しく、建築家のレギウスとの会話形式で語られている。


 もう一つこの都市の全貌を把握するために重要な常識がある。


 木造立体都市パンガムは上層階、中層階、下層階と三つの階層に分けられて語られることが多い。これには明確は区切りがあるわけではない、一階二階三階の区切りともまた違う、概念的な区切り方だ。この三つの階層が何を意味するかというと、歴史的な権力と経済力である。 資本家や高級貴族の末裔でパンガムに行き渡る商売をするもの、有名人などは多く上層階に暮らす。一般市民は一番分厚い中層階に暮らす。そして仕事がないもの、教育のないものなどは下層階に暮らす。現在政府が力を上げて取り組んでいるように見えるのは、この階層による棲み分けの問題である。ごく自然に、歴史の流れの中でまるで水と油が分離するみたいに分かれていったこの都市の生活上の問題は至る所に現れていた。犯罪、識字率の低下、老人が家から追い出される姥捨(教育機関から禁止用語要請が出ている)。またカビゴンは『格差辞典』と言うその意欲的な著作の中でパンガムないに表面化されていない差別意識が社会構造に影響を与えていると指摘した。


 この世界の中を、この物語では三人の人物を観て辿ることになる。 一人は純粋すぎる心でこの國から悲しみをなくそう、弱者となっているものを救おうと奮起する、その傍ら自分の無力に悩む美しい少年で、やがて自力で國を変えてゆくことを望むようになる。


 もう一人は涼しい顔をした少年で、凪のような精神で、特定の出来事に関わることを嫌い十五歳になった日から旅を続ける。能動的にいてもいなくてもいい人間になることを求めるが、その心底ではこの世界の真の姿を追い求めいている。永遠の通りすがりである。


 そしてもう一人は小さな少女で、彼女は特別得意なこともなければ、やりたいこともない。何か自分にいいものを見つけたいと漠然と考えながら学校生活を過ごすのである。彼女は周囲に翻弄されながら、全てを見守り、全てを肯定することを求める。


 その他、無数の(考え方の異なり、欲する物のすれ違う)人たちが住む。


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