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43.尋問

 広間で待ち構えていたのは、五人の男だった。

 ここ、ラベーヌス共和国の首相。

 ヤン帝国、コルベア公国、エルドリア王国の全権大使。

 その四人を左右に従え、玉座に座る王のようにふんぞり返っている、アンドルゴ王国第二王子ワイアット。


(なに……このメンツ?)


 シヴァンシカの背筋が凍る。

 「ゲーム」の中で、シヴァンシカが留学先として選ぶ五つの国は「五大国」と言われ、覇権国家アンドルゴ王国とは敵対する関係である。

 外交交渉上同じ席に着くことはあっても、決して行動を共にすることはない。だというのに、その五大国のうちスウェン王国を除く四カ国の代表が、まるでワイアットの側近のごとく控えていた。


(なにが……始まるの?)


 呆然とするシヴァンシカを、クリシュナ導師が突き飛ばすように押し出した。よろめきながら広間中央に立ったシヴァンシカに、ワイアットが勝ち誇った顔で声を掛ける。


「ようこそ、聖女様」


 わけがわからず、どうしていいかわからない。

 シヴァンシカは押し黙ったままワイアットを見つめた。


「そのような怖い顔でにらまれては、言葉が続けられぬではないか」


 ワイアットがニヤニヤ笑いながら告げる。

 ラベーヌス共和国の首相が大きな咳払いをして口を開いた。


「シヴァンシカ殿。お立場をわきまえられよ。あなたは被告としてこの場にいるのですぞ」

「……罪状は何?」


 レクスの実の不正な流通。ワイアット殿下の評判を下げるための裏工作。

 クリシュナ導師はそんなことを言っていた。だが、シヴァンシカには心当たりがない。詳しいことがわからないうちに、言質を与えるようなことは言えない。


「おや、クリシュナ殿から聞いておられぬのか?」


 わざとらしくワイアットが驚いた。視線を向けられて、クリシュナ導師は「申し訳ございません」と慇懃に頭を下げる。


「一通りは説明したのですが……どうにも、物覚えが悪いようで」

「ああ、そうであった。聖女様は二度も留年しておいででしたな」


 シヴァンシカを除く全員が失笑した。明らかにバカにしたワイアットの態度に、シヴァンシカはカッとなる。


「ろくに勉強もせず、王国の権威と財力だけで卒業した人に言われたくないわ」

「はて、なんのことかな?」

「そもそも、私が罪を犯したというのなら、罪状を明らかにし、共和国の法に則って裁けばいい。何故に他国の王子が偉そうに裁こうとしているのか、説明しなさい!」

「おや、いいのかね? 私としては温情処置のつもりだったのだが」

「どういうことよ!」

「公にすれば、レクス国は存亡の危機に瀕する、と言っているのだよ」


 ワイアットがクリシュナ導師に目配せした。クリシュナ導師はうなずくと広間を出て行き、二人の人物を連れて戻ってきた。

 アラディブ導師と、ミズハが国に返したはずのサラだった。


「アラディブ導師に……サラ?」


 恐怖に震え、目を泳がせているサラ。その隣で、アラディブ導師はぼんやりとした表情をし、締まりのない口からよだれを垂らしていた。

 明らかにアラディブ導師の様子がおかしい。


「レクス国の全権大使であるアラディブ導師と、神殿女官サラ。まちがいありませんな?」


 ヤン帝国の大使が確認してきた。シヴァンシカはうなずく。


「ええ、そうよ」

「この二人が、共和国にレクスの実を密輸していた疑いがあります。さらにアラディブ導師に関しては、ワイアット殿下に成りすまして、多くの女性に乱暴をした疑いがあります」


 事の始まりは五年前。

 ラベーヌス共和国で三十年ぶりにレクスの実の中毒患者が発見され、衝撃が走った。厳重に管理されているレクスの実を、一体誰がどうやって。共和国の警察は特別チームを組み捜査に当たったが、一向に手掛かりが得られなかった。

 その一件を始まりに、レクスの実の中毒患者が何人も見つかった。事態を重く見た共和国は、レクスの実の研究が進んでいるコルベア公国に協力を依頼、国際的な捜査網を敷き、根気よくその流通ルートを探し続けた。


 そして、レクス教の一人の女官が、怪しい動きをしていることに気づく。

 それがサラだった。

 外出が制限されている神殿女官でありながら、定期的に国外へ出ている形跡があった。当初は、堅苦しい神殿暮らしの息抜きに遊びに行っていると思われていたが、その時、必ず会っている男に気づいた。


「その男が、アラディブ導師というわけだ」


 さらに調査を進めると、アラディブ導師とサラは、会うたびに何かをやり取りしていた。

 アラディブ導師からサラへは、まとまった額の金。これはわりとすぐに突き止められた。サラが街で遊ぶ金は、それが原資になっていた。

 だが、サラからアラディブ導師へ何が渡されているかは、一向につかめなかった。


「それが、半月前に判明した、というわけだ」


 半月前と聞いて、シヴァンシカはどきりとした。

 サラがシヴァンシカの法衣を合わせるためにやってきた頃だ。


「ほう、顔色が変わりましたな」


 シヴァンシカの様子を見ていたヤン帝国の大使がつぶやいた。しまった、と思ったがもう遅かった。


「なるほど、聖女様にはお心当たりがあるようだ」

「その女官を国境まで送り届けたのが、ギムレット家ご令嬢お付きの執事であることは、わかっているのですよ。しかも、深夜にね」


 エルドリア王国の大使の言葉に、シヴァンシカは押し黙る。


「黙っているのは、認めているということかな?」

「……私、衣装合わせの後、体調崩して臥せっていたから。詳しいことは知らないわ」

「なるほど、体調不良ね」


 ワイアットが嘲笑し、各国大使もニンマリと笑う。苦い顔をしているのは共和国首相だ。


「では、聖女様が臥せっておられるときに、ギムレット家のご令嬢が独断で送り返した、ということですな」

「……そうなりますな」


 ヤン帝国大使の指摘に、共和国首相は渋々という感じでうなずいた。


「ほう、ならば新しい可能性が出てきたわけだ」

「殿下、といいますと?」

「わかりませんか、クリシュナ導師。レクスの実の密輸は、アラディブ導師が単独で行っていたのではない、ということです」

「つまりそれは……」

「ええそうです。ギムレット家のご令嬢、あの『漆黒の魔女』が一枚噛んでいた、ということですよ」


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