主人を失ったメイドは復讐の焔に焦がされ
リディアーヌが死した後、メイドのエリーゼ視点での話になります。残酷な描写があるので苦手な方はお気をつけください。
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「お嬢……様」
『冷たい水を持ってきて』は、リディアーヌとエリーゼが二人で決めた緊急時の暗号だった。
子どもたちから知らせを受けて、息を切らせながらたどり着いた孤児院。
そこには惨たらしく切り刻まれたリディアーヌが倒れていた。死ぬ直前まで苦しむような方法がとられたのは一目瞭然だった。
「あー、まじか。こんなに強い人間に続けざまに会うなんてな」
「貴様か、私のお嬢様をこのような目に合わせたのは」
見るものにまるで氷点下の場所にいるように錯覚させるほど冷たい瞳、そして実際に部屋の温度が徐々に下がり、割れた窓ガラスさえ凍り始めた。
「氷魔法か、ここまでの使い手は俺らの里にもいないんじゃないかな。すげぇな、あんた」
「黙れ、誰の命令だ」
「さすがに、依頼主の情報は死んでも話せねぇよ」
「では、もう話すことはない」
氷でつくられた刃を武器に、ひらりと蝶が舞うように襲い掛かるエリーゼの身のこなしにキースは息をのんだ。
「おいおい、何でその身のこなしをあんたができるんだ。まさか、俺らと同じ……」
その言葉に答えることなく、エリーゼはキースに執拗に攻撃を続ける。
「やべえな、さすがにあんたほどの能力を持ったやつを相手に、連戦はきつい」
「逃がすか!」
しかし、エリーゼの刃はキースの首筋に届く直前で空を切った。
「転移の宝珠……まさかそのようなものまで」
エリーゼは、冷たいアイスブルーの瞳でリディアーヌの姿を眺めた。リディアーヌの手は同じく倒れるアルフリートの手を握りしめている。2人の表情は、不思議と穏やかだ。
周囲に何人もの黒装束の男たちが倒れていることからも、アルフリートがリディアーヌを守りながら戦っていたのは一目瞭然だった。
「お前が幼いころからお嬢様を守りたいと願っていたのは知っている。でも、この体たらく、守り切ることができなかったのだから所詮ただの駄犬としか言うことができないわ」
アイスブルーの髪を揺らして、リディアーヌに背を向けたエリーゼは、二度と振り返ることはない。その表情は、リディアーヌに出会う以前のエリーゼのものに戻っていた。
「……お嬢様の仇は、私がとります。それまで、おそばに行けないことをお許しください」
こうして理に反したことによる死を代償にしてリディアーヌの運命は廻りはじめた。
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