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繰り返しの元聖女は聖騎士改め暗黒騎士を守りたいのに溺愛される  作者: 氷雨そら
第1章 聖女は聖騎士を救いたい
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聖女は理を捻じ曲げる決意をする

ご覧いただきありがとうございます。

ようやく、リディアーヌが繰り返す原因となった場面になりました。残酷な描写があるため、苦手な方はご注意ください。

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 たとえどんなに幸せで穏やかな日々だとしても、永遠に続くことはない。


 その日、リディアーヌは孤児院で子どもたちと過ごしていた。


 今日もリディアーヌについてきたアルフリートの背中や腕には、6人もの子どもたちが楽しそうに笑いながらぶら下がっている。


 アルフリートも嫌ではないのだろう。心なしかその表情はやわらかい。


(合計何キロあるのかしら。すごいわ、アルフリートさま)


 はじめのうちは聖騎士の姿で訪れたアルフリートを遠巻きにしていた子どもたちだが、アルフリートが子どもたちに絡まれても表情を変えず拒否する様子が無いとわかるや否や、遊具の代わりにしてしまったようだ。


「あまりアルフリートさまを困らせてはいけないわよ」


(でも、なんだか微笑ましい)


 そう思ったリディアーヌに、4歳になったばかりの赤毛の少女、ハンナが抱き着いてきた。ハンナは琥珀色の瞳でリディアーヌを見上げながら言った。


「ね、アルさまとリディさまはけっこんするの?」

「えっ、どうしてそう思ったの?」

「だって、いつもいっしょだからけっこんするんじゃないかってみんないってるよ」


(子どもが言ったことなのに)


 リディアーヌは、耳が熱くなるのを感じた。たしかにアルフリートはやさしく素敵だ。もしそうならどんなにいいだろうと思ってしまうのは仕方がないのかもしれない。


 そのとき、予想に反して微笑んだアルフリートが口を開いた。思わず見つめてしまったアルフリートの瞳は、ほのかに煌めいている気がした。


「私は結婚できればいいと思っているよ。初めてリディアーヌ様に出会ったあの日から」

「あわわ……?!あ、ある、ふりーとさま?!」


(たぶん私に恥をかかせまいとそんな風に答えてくれたんだよね?)


 そう思って気持ちを落ち着けようとしたリディアーヌだが和やかな雰囲気が影を潜め、笑顔でいたアルフリートが急に殺気を帯びて険しい雰囲気になった。


「どうか、私から離れないでください」

「アルフリートさま、子どもたちを逃がさなければ」


 私はアルフリートから離れ、子どもたちに声をかける。


「みんないい子ね。今からアルフリートさまと私は大事なお仕事をすることになったの。秘密の出口からお外に出て、神殿に行ってちょうだい。そうね、私のメイドのエリーゼに『孤児院まで冷たい水を持ってきてほしい』と言ってもらえるかしら」


 それは、緊急事態を伝える暗号だった。


 神官たちが裏切っていないとは言い切れない今、子どもたちを守るには戦う力をもっているエリーゼに伝えるのが一番良いと思った。


 子どもたちが秘密の出口から走り出た直後、リディアーヌの横を風を切った矢が通り抜け、後ろの壁に突き刺さった。それと同時に、十数人の黒装束の男たちが、扉からなだれ込んでくる。


(数が、多い。弓矢まで用意してるなんて、私を守りながら戦うのはいくらアルフリートさまでも……)


 思わず見上げたアルフリートは、リディアーヌの正面から離れる様子はない。リディアーヌを守りながら戦おうとしているのがその姿から容易にわかった。


「アルフリートさま、私に構わず逃げてください。彼らの狙いは私でしょう?」

「……っ、あなたは私の言葉を聞いていなかったんですか?」


 アルフリートの瞳が金色に輝き、舞うような剣技で一瞬にして3人を切り倒した。


(アルフリートさまが戦う姿を初めて見たけれど、本当に強い!)


 アルフリートが逃げないなら、せめて邪魔にならないように指示に従うことしかリディアーヌにはできない。アルフリートは続けて、男たちを床に沈めていく。


(あと、一人……!)


 その時、窓の外から放たれた弓矢がリディアーヌの肩に突き刺さった。


(あ。だめ!)


 アルフリートが、敵に背を向けリディアーヌを庇う。そして相手の男は、それを逃すような真似はしなかった。



「アルフリートさま!」

「グッ……に、げ」

「できるはずがないでしょう!今、癒しの魔法を!」



 リディアーヌは、癒しの魔法をかける。何度も、何度も。それでも、アルフリートの肩からおそらく肺まで到達しているだろう傷が塞がることはなく、おびただしい朱が床に広がっていく。


 そこで初めて黒装束の男が口を開いた。


「本当に強い騎士だな。こんな卑怯な手段で戦うのが惜しい。だが、契約による命令は絶対だ」


 男は黒い覆面を外し、リディアーヌを見つめた。


「強い男に、俺らは敬意を持つ。俺は、キース。あんたの騎士はすごいやつだ。それにあんたとも、こんな場でなく会いたかったな」


 緋色の髪と瞳の、まだ幼さが残る素顔だった。


 対するリディアーヌは、限界を超えての魔法の行使に、意識を朦朧とさせていた。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 そしてリディアーヌは気づくと、何もない白色の空間に立っていた。


(女神の神託……)


 そこは先日、女神からの神託を受けた時と同じ空間だった。目の前には、リディアーヌと同じ髪と瞳の色をした女神が佇んでいた。どことなく誰かに似ている。


 神託と言っても、女神は話さない。ただ、そこに呼び出されたものが理を知るだけ。


 死者を生き返らせること、人生をやり直すことは理に反する。その理を曲げるには聖女であっても大きな代償を必要とする。


 代償を受けて惨たらしく死を迎える自分の姿が脳裏に浮かぶ。


 それは通常であれば気がふれてしまうほどの恐ろしさだった。聖女であっても命を捧げるだけでは、理に抗う代償には足りないらしい。


(それでも……)

 アルフリートが見せてくれた、瞳の煌めきも、少し不器用な微笑みも。もう見ることができないのだと認めるのは、もっと、もっと恐ろしい。


 その日リディアーヌは時間を巻き戻す代償に、アルフリートが死ぬ度にその何倍も惨たらしく死ぬという運命を受け入れた。



最後までご覧いただきありがとうございます。もしまた見たいと思っていただけたら☆を★にしていただけるとうれしいです。

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