つかの間の幸せ
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アルフリートと出会ったその日から、リディアーヌの日常は大きく変わった。
もともと神殿には光魔法の癒しの力を求める人たちのため、そして併設された孤児院の子どもたちに会うためにほぼ毎日通ってはいた。
それでもそこで聖女として暮らすとなると話は違ってくる。
朝早くから女神に祈りを捧げ、聖女になってからさらに訪れることが増えた人々のために癒しの力を使い、孤児院の子どもたちを訪れ、聖女としての教養を身につけるために夜遅くまで学ぶ。
「お疲れになりませんか、お嬢様」
「ふふっ、私は大丈夫。必要としてもらえて新しいことをたくさん知ることもできて、今とても楽しいの」
基本的には聖女にはメイドはつかない。だが、どんな手を使ったのかエリーゼは神殿までついてきて甲斐甲斐しくリディアーヌの世話を焼いている。
(どうやって神官たちに私に付き添うことを認めさせたのかしら。エリーゼなら相当黒い手段でも手段を選ばない気がする、考えるの怖い……)
ふるふるっとその考えを打ち消したリディアーヌだが、それと同時に幼いころからともに育ち、支えてくれているエリーゼがそばにいてくれるのがこの上なく心強かった。
「それにしてもあの男」
「あの男って……」
「あの男と言えば私のお嬢様に付きまとう馴れ馴れしいあの男です」
「もしかして、アルフリートさまのこと?さすがに不敬よ」
聖騎士として忠誠を誓ってから、アルフリートはいつもリディアーヌのそばに控えている。無表情なことが多いが、笑顔を見せてくれることも増えてきた。
さすがに、リディアーヌが与えられた部屋の中まで入ってくることはないが、今だって扉の前に控えているのだろう。
「聖騎士の仕事に忠実な、まじめな方なのね。そこまでそばにいて守って頂くのは申し訳ないとお伝えしたのに」
真夜中にふと目が覚めて自室から出てみると、やはりアルフリートは扉の前に控えていた。
(本当にアルフリートさまはいつ休んでいるのかしら?)
不思議に思って一度聞いてみたら、「夜中には流石に眠ってますよ」と返された。
では、あれはたまたまだったのだろうか。それともまさか扉の前で眠っているとでもいうのだろうか。
そう思いをはせるリディアーヌを見つめながら、エリーゼは短くため息をついて、心底嫌そうな顔をした。
「はぁ、お嬢様は無防備すぎます。いくら念願叶ってそばにいられるようになったとは言え、あの駄犬、お嬢様のやさしさに付け込んで図々しいのです」
(後半はほとんど聞き取れなかったけど、駄犬……?ものすごく不敬なことを言っている気がする)
聖女としてはまだまだ半人前のリディアーヌ、それに黒い髪と瞳を持った聖女を不吉であると良く思わない人は貴族にも神殿にもいまだに多いと聞いている。
だからこそ、やさしく職務に忠実なアルフリートは、そういった者たちから、忠誠を捧げた聖女を守ろうと付き添ってくれているのだろうとリディアーヌは解釈していた。
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