商人の外堀は埋められる
バルトルトターンです。すでに外堀は埋められてます。
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「来たか」
来客の知らせを受けて、勇者がほくそ笑んだ。ギルマンの案内で、扉が開かれる。
「お初にお目にかかります。レーヴェレンツ商会会長を務めています。ルシアード・レーヴェレンツと申します。この度は、謁見をお許し頂きありがとうございます」
「うん。ルシアード、よろしく」
ルシアードは、バルトルト男爵家長兄。今回の謁見では、男爵としてではなくレーヴェレンツ商会を名乗った。
薄茶色の髪と瞳は、バルトルトと同じだが、人の良さそうな弟に比べ百戦錬磨の商人の風格が漂う。
「それで、俺に何の用かな?」
「ええ、うちの愚弟がお世話になっているそうですね」
「ああ、うちの序列四位のことかな?勘当されたって聞いたけど」
ルシアードは、笑みを深める。
「約束通りキサラギ領との繋がりを作った弟です。勘当なんてするはずもない」
「そっか。でも、序列四位は返さないよ?」
「はは。のしをつけて差し上げましょう」
今度は勇者が笑みを深める番だった。
「商人の差し上げるほど怖いものはない。ふふっ。だが、今回の取引はそちらの言い値だよ」
流石にルシアードは、目を見開いた。レーヴェレンツ家における、その言葉の意味はすでに勇者の知るところのはずだ。
「…………言い値ですか?しかしアレについては、実用段階には程遠く……」
「ははっ。すでに最高の鍛治師を手に入れているだろう?それに、ここにはどんな素材でもある。それに完成品の設計図は、今ここに」
勇者は自分の頭を指差した。
「…………何に使われるつもりなのか教えていただきたい」
「今は魔獣とヒトが戦うためさ。10年後の未来はルシアードにも予想はついているだろう?俺は関与しないよ。どうする?」
「ふふ。可愛い弟の頼みならば。……と言うのは建前で。バルトルトが武器に関する風を読み間違えることはない。ここに留まっているのがその証拠。乗らせてもらいましょう。それから…………」
ルシアードの自信に満ち溢れた笑顔だけは、武器に関する商談時のバルトルトに似ていた。
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「え?兄貴が来ている?」
バルトルトが駆けつけた時には、すでに話がついたあとだった。
「…………すでに、手遅れ感がある」
「やあ、バル。無事役目を果たしたね」
「…………兄貴」
「この間の言い値の支払いだけど、バルの払い過ぎでお釣りが出たんだ」
笑顔のルシアードに対し、バルトルトの顔はみるみる曇っていく。
「またまた僕抜きに、何が決まったのかな?」
「そんな警戒するなよ。ふふ。アレの全権がバルのものになったから。というより」
「は?アレってうちの最高機密…………な訳ないよ……な。え?何その笑顔。何企んでるんだよ?」
ルシアードが、バルトルトに臣下の礼を取る。
「勇者の剣序列四位、バルトルト殿。今後、我が商会はあなた様の傘下に加わりました」
「は?な、何言って……」
そこに今まで控えていたギルマンが、笑顔のままに口を開いた。
「序列四位は王国でいう三大公爵家に近い扱いでございますので」
「…………は?そんな扱い受けてたっけ?いや、ひたすら書類業務のただ働きさせられてただけだよな?」
「そちらの仕事について今後は、ぜひ我が商会のものをお引き立てくださいませ。序列四位殿」
跪いた兄、上座にいる弟は暫し見つめあった。
「…………なんだか外堀が埋められている!?」
キサラギ城に、バルトルトの悲鳴が響き渡った。
「ははっ。バルトルトといると本当に楽しいな。ずっとここにいてくれよ?」
「あっ、あんたやっぱり魔王だろ?!」
たぶん、勇者に対して魔王と面と向かって言える唯一の男は、今日もブラックな職場にしばられる。
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