メイドはお嬢様のためにもっと強くなりたい ついでに借りを返したい
お越しいただきありがとうございます。メイドのエリーゼ視点です。あのバルは、回想のみ出てきます。
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「くっ、炎の魔力を持っているのね」
辺境伯領北端、魔王領から魔獣が大量に発生する前段階なのか、最近は魔獣の姿が多く見かけられるようになっていた。
―――まぁ、あんたの魔法、炎とは相性悪いからな。生き延びたければ、他の攻撃手段が必要そうだな。
ギュンターに言われたことは、歯軋りするほど悔しいけれど事実だとエリーゼは思う。エリーゼの腰には今まで持つことのなかった一振りのショートソードが挿してある。
無論、エリーゼは剣技も一通り納めている。しかし、今までは軽い身のこなしを活かして、メイド姿で怪しまれずに戦うには、自身の魔法で作った氷の剣で戦う方が都合が良かった。
「はっ!」
ショートソードを持ったままいつもよりほんの少しぎこちなく舞うエリーゼは、また一匹、炎を纏う狼を足元に沈めた。
(まだ、まだ足りない。お嬢様とともにいるためにはこんな力では……)
伯爵令嬢である、リディアーヌを守るには今までの戦闘スタイルが合っていたし、エリーゼには一流の護衛であるという矜持もあった。
でも、今や魔王領はキサラギ領となり、あの魔王は勇者を名乗っているという。
王国とキサラギ領は、2人の聖女の力により、長年の戦いに終止符を打ち、一時的にではあるが和睦が結ばれた。
(全軍の指揮権をお嬢様に託すなど……。あの魔王何を企んでいるというの)
「また、何か悩んでおるのか。大方、現状の課題に対し自分の力不足を歯がゆく思うておる、といったところか」
「長老……」
「相変わらずそなたは己に厳しい。それはある意味では良いことなのかもしれぬが……。流石にあやつらと比べるのは、ちと無理がある。強さというのは戦う力だけではないからの」
「…………」
エリーゼは、わかっているつもりだ。戦うだけなら、アルフリートやキース、そしてあのギュンターという男に遠く及びはしない。
――― 戦闘能力は人並みかそれ以下なので期待しないでくださいね。
「…………」
(強さというのは戦う力だけではない……か)
あの男の薄茶色で人が良さそうに見える瞳は、いつもほんの少し眠たそうだ。
エリーゼはそのイメージを打ち消そうと、かぶりを振る。
(少し助けられたからといって、あんなバルを思い出すなんて。はっきりいって、一般人以下の戦力ではないの)
そんなふうに思いを巡らせるエリーゼに、コノハナは面白いものでも見たという顔をして話しかけてきた。
「ふふっ。そういえば、リディアーヌさまに伺ったのだが、そなた命を救われたらしいではないか」
「長老、それは……」
「あと一回。掟は理解しておろうな?」
掟なんて殆どが古い風習だ。だが、里の者たちはその掟と契約の履行を何よりも重要視する。
「はっ。あり得ません、あんな偶然……何度もあってはその前に命が尽きるに違いありません」
(勿論私ではなく、主にあのバルが。人並み以下の体力と戦う力。魔獣と相対するあんな場面でそう何度も生き残れるとは思えないわ)
しかしバルトルトは、あの見たこともない武器が未だ欠陥品であることを承知の上で、必要な場面ではそれを躊躇わず使った。
あとで聖女が魔法で治してくれるだろうとか、おそらく命には関わらない怪我で済むだろうとか、そういう打算は感じられなかった。
(はぁ。流石あの駄犬と友人なんかでいられるだけあるということにしておきましょうか)
魔王改め勇者の右腕として、王国最強としてその名を馳せるアルフリート。
それに理外れなのは、時々煌めいたり黄金になったり忙しいあの瞳だけではない。
―――そもそもそんなアルフリートが友と認める男が普通であるはずないではないか。
「はぁ。やはり口惜しいわ。あんなバルに借りがあるなど」
まもなく借りを返す機会は、あちらからやってきそうな気がする。
それがどんな場面かはわからないが……。あの借りは返すわ。とエリーゼは少し黒い笑顔を覗かせて強く誓った。
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