お伽噺の魔王と勇者
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もうすぐ、イリーネが到着する。情報によると第三王子も共に来ているそうだ。
リディアーヌの今日の衣装は、魔王が用意してくれた。まだ、袖は通していないが全体的に白を基調にしている。
(闇の聖女っぽくないけど、いいのかしら?)
ふたたび魔王に衣装を贈られたのを見て、アルフリートは何か言いたそうにしていたが、薄紫の髪をした執事のギルマンが序列一位殿も準備をなされたほうがよろしいかと。と言いながら強引に連れて行った。
「さあ、闇の聖女様もお召し替えなさってください」
そう魔王城のメイドたちに促され、あれよあれよという間に飾り立てられて、鏡の前には闇の聖女というにはあまりにも清楚な恰好のリディアーヌが立っていた。
白い衣装は、ふんだんに繊細なレースが使われたプリンセスライン。髪の毛は緩くサイドに編み込まれ、白い小さな花と真珠が所々に飾られている。両手は白いグローブ、耳元は真珠の耳飾りが揺れていた。
「わぁ。お嬢様、とてもかわいらしいのです」
「お嬢様、何をお召しになっても似合う」
リルルとメルルがリディアーヌの周囲をくるくる回りながらほめてくれる。
「リルル、メルル。ありがとう。……それにしても以前の人生で聖女をしていた時よりも聖女らしい装いだわ」
魔王の意図はわからない。すでに正式な黒い軍服姿のアルフリートも、ギルマンに連れていかれたが、これ以上の用意が必要なのだろうかとリディアーヌは疑問に思った。
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そんなことを考えていたリディアーヌに、イリーネと第三王子の来訪が告げられた。
部屋を一歩出たリディアーヌは息をのむ。
さっきまで、黒と黄金を基調とした重厚でありながらも禍々しい印象だった城の内装が、外装と同じ、白と青と控えめな金色、清楚でかわいらしいものに変わっていたのだ。
「わ。かわいい。でもいつの間に……」
「……我が君のする事ですから」
いつの間にか背後にギルマンが立っていた。最近は気配無く近づくのが流行っているのだろうか。
「元の状態に戻っただけでございます。それと。貴方も隠れていないで出てきなさい」
柱の陰からアルフリートの気配がする。
(なぜ出てこないのかしら)
「ふむ。剣を持てば修羅のようなのに、仕方のないお方ですね。ヘタレでございます。序列一位殿は……。ギュンター殿、連れてきてください」
ずるずると引きずられるようにギュンターに連行されてきたアルフリートの姿を見て、リディアーヌは息をのんだ。
(今世では、一瞬見ただけで終了した聖騎士の正装だわ!!控えめに言って最高に素敵。ギルマンさん、いい仕事するわ!)
暗黒騎士と呼ばれ、黒い軍服や鎧に身を包んだアルフリートは凛としてとてもカッコいい。それでも聖騎士の服装こそアルフリートらしい。とリディアーヌは思った。
(それにしても、どうしてこの装いなのかしら)
疑問に思うが、すでに時間は迫っている。ため息を一つだけついて観念したらしいアルフリートが、リディアーヌの姿を優しく見つめ手を差しのべてくる。
「やはり、その姿がお似合いになります。リディアーヌ様。エスコートする栄誉を頂けますか?」
「よろこんで」
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謁見の間も、すっかり印象を変えている。魔王が座っていた豪奢な椅子だけは変わらないが、内装が変わった今は、魔王の椅子というよりも王者の椅子だ。
それよりも何よりも、今起こっている状況が飲み込めず、リディアーヌは戸惑ってしまう。
「あの……なぜ王子様が臣下の礼をとっておられるのでしょうか」
「ふむ。長きに渡り広大な国を治める我が君が、第3王子よりも地位が高いのは当たり前の事でしょう」
「わ……私はどうしたら」
ギルマンは、執事として恭しく礼をする。
「闇の聖女様は序列一位殿に指示する権利を、我が君以外に唯一持っておられるお方。全指揮権を持つと言っても過言ではございません。堂々となさってください」
「ひぇ……」
なんだか大事になってきたとリディアーヌは思う。その時、同じく淑女の礼をしているイリーネの姿が第3王子の後方に見えた。
「イリーネ……」
いつも笑い合っていた2人なのに、なんだかとても長い間離れていたような気がする。
その時、強く威圧される感覚が全員を襲った。第三皇子も聖女イリーネも心なしか青ざめ、震えているようだ。
「待たせてしまったかな?皆、楽な姿勢をとってくれて構わないよ」
慌てて淑女の礼をとっていたリディアーヌが、そっと顔を上げた。
「え……」
そこでリディアーヌは、信じられないものを見て目を見開いた。
そこに魔王はいなかった。
「久しぶりにこの格好をしたな……。まず名乗らせてもらおうか。俺は、キサラギ シンジ。かつて勇者と呼ばれていたが、最近は魔王のほうが定着してしまったな。この地キサラギを治める王だ」
そこに立つのは、お伽噺の勇者そのものだった。
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