挿話 メイドと騎士見習の攻防
お越しいただきありがとうございます。人物紹介を含めると本日3回目の投稿です。
エリーゼが何故アルフリートを駄犬と言っていたのかについてのお話です。
あともう一つ挿話を挟んだあと、第二章を開始予定です。
✳︎ ✳︎ ✳︎
(今日もお嬢様に纏わりつく犬が来ているようです。今日こそ懲らしめて差し上げましょう)
「そこの貴方。この屋敷になんの御用でしょうか」
「あ……。貴女は?」
エリーゼは黒くスカートが通常のメイド服よりも短いワンピースの胸元で腕を組んでいる。
「私のお嬢様に不埒な思いを持っているのなら、今すぐ天誅を下しますよ」
「あの、私はアルフリート•シュノッルと申します。リディアーヌ様に……うわっ」
「わかりました。喰らいなさいっ」
エリーゼは、大きな氷塊を作り上げるとアルフリートに向けて落下させる。
―――――ギィンッ
しかし氷塊はアルフリートの一閃でバラバラに砕けた。
「騎士の剣技ですね。努力のあとは見受けられます。まぁまぁ良し。です」
「あのっ、話を聞いてもらえませんかっ?」
「問答無用!私より弱い男は、お嬢様に不埒な思いを持つ資格はありません!」
エリーゼは、氷の刃を持ちアルフリートに斬りかかる。
――――キィンッ――――ガァン
たった2回の打ち合いで、アルフリートは地面に尻餅をついていた。その剣も遥か遠くに飛ばされている。
「そんなことでは、お嬢様を守ることさえままなりません。出直しなさい」
「は。その通りですね。出直させて頂きます」
そして次の日も夕方になるとアルフリートは訪れた。
「本日もお手合わせ願います。エリーゼ殿」
「なんで私の名前を。まぁ、良いでしょう。かかってきなさい」
――――カァンッ――――キンッ――ガッ
今日は3回の打ち合い。アルフリートは地に伏していた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それから一ヶ月。
「はっ」
気合を込めて打ち込んだアルフリートの一撃に、エリーゼの持つ氷の剣は折られ、アルフリートはエリーゼに斬りかかる。
「まだです!」
エリーゼは氷魔法を使い、蝶のように飛び上がり回し蹴りを決める。氷によって足場を悪くしたアルフリートは地に伏していた。
「まだ……叶わないか」
(この成長率、里にもここまで短期間に成長していくものは見なかった。恐ろしい能力と……執念?)
何がここまでアルフリートを駆り立てるのかわからない。だが、アルフリートの手のひらには何度もつぶれた血豆の跡があり、見える部分も小さな傷だらけになっている。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それからさらに2ヶ月。エリーゼの喉元にはアルフリートの剣が。
「仕方ない。要件を伺います、お客様。お嬢様になんの御用でしょうか?」
「あの、これをリディアーヌ様に」
アルフリートが手にしていたのは一輪のコスモスだった。
(え。まさか、これだけのために?)
「ありがとうございます。貴女はほどのお方が、リディアーヌ様を守っていること、心から安堵いたします。エリーゼ殿、ありがとうございました。では、失礼いたします」
それからアルフリートは、リディアーヌの元を訪れることはなかった。
「あら?コスモスを飾ってくれたの?エリーゼありがとう。私、コスモスの花が一番好き」
「……使用人に気安く礼を言うなんて、令嬢としての品性を疑われます。お嬢様」
✳︎ ✳︎ ✳︎
次にエリーゼがアルフリートを見かけたのは、リディアーヌが聖女候補として神殿に通い始めた頃。アルフリートは、聖騎士として神殿にいた。
里での経験と情報収集能力を生かし、時に懐柔し、時に影から脅しをかけ、エリーゼはリディアーヌの付き人として神殿に潜り込んだ。
(あの男。お嬢様に声をかけるでなく遠くから見守るだけ。何をしているの?)
しばらく観察していたエリーゼは気がついた。アルフリートは黒い髪と瞳を持つゆえに、理外れを敵対視している神殿の一派に命を狙われているリディアーヌを守ろうとしているようだった。
もちろんいつもエリーゼがリディアーヌを影から日向から守っている。
しかしリディアーヌを狙う敵対者は、アルフリートが政治的に、物理的に手を回しほとんど片付けているようだった。
(それでもあの男、お嬢様に近づくことなく見守るだけで満足しているようだわ。……やはり犬というのがふさわしいわね)
これだけリディアーヌの安全に貢献するなら、もう少し、あと少しだけ近づいたとしてもエリーゼは目を瞑るだろうに。
「はぁ……やはりあの男、駄犬ね」
エリーゼは右の口角を上げたあと、そう呟いた。
最後までご覧いただきありがとうございます。感想、評価、ブクマいただけるととても励みになります。よろしくお願いします。




