聖女は運命の輪から外れ闇落ち認定を受ける
今回もご覧いただきありがとうございます。
最終的にはハッピーエンドの予定ですが、少しシリアス展開は続きます。
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神殿の中庭には、聖女選定の瞬間を見ようとたくさんの神殿関係者が集まっている。中には高位貴族や王族の姿もみられた。たぶんこの中に、聖騎士であるアルフリートもいるはずだ。
「聖女にはイリーネ・ミカミが選ばれた」
美しいブロンドと澄んだエメラルドの瞳をしている妹は、まさに聖女のイメージそのもので、その選出を誰もが喜びで迎えた。
神官の厳かな宣言に、儀式参加者から喜びや祝福の大きなざわめきが起こる。
そのざわめきの中、一人リディアーヌは時間の流れから取り残されたような感覚を覚えていた。
(聖女に、選ばれなかった……?)
聖女にはリディアーヌの妹、イリーネが選ばれた。
リディアーヌが聖女に選ばれた今までの人生でも、光魔法の才能は誰よりもあるけれど特異な黒髪に黒い瞳から『理外れ』と揶揄される姉より、ブロンドにエメラルドの瞳で光魔法の使い手でもある妹が聖女に選ばれるべきと考える人は多かった。
その証拠に今までの人生でリディアーヌが、選出された時のざわめきは、いつも戸惑いや忌避感が含まれたものだった。
(今回の人生は初めから大きく変わってしまったみたい)
聖女に選ばれなかったことよりも、何よりも、繰り返す運命が大きく変わったことに愕然とするリディアーヌは、こちらを凝視する視線には気がつかなかった。
(あれ?これだと、そもそもアルフリートさまと出会わないのでは?)
アルフリートとの出会いは、いつもリディアーヌが聖女に選ばれたそのあとに、リディアーヌの守護騎士として聖騎士であるアルフリートが国王に任命されるというものだった。
アルフリートは、広大な領地と魔王領に接し国防の要である辺境伯の長男、しかも聖騎士だ。
聖女を輩出する事があるというだけで裕福とはいえないミカミ伯爵家の長女で不吉な黒髪に黒い瞳のリディアーヌが出会う機会はなさそうだった。
(おそらく今回のアルフリートさまは聖女に選ばれた妹イリーネの守護騎士になるに違いない)
そう考えるだけでリディアーヌの胸はちくりと痛む。
(でも、遠くから守るのもいいのかもしれない。あんな風に庇われてしまうくらいなら)
あの時の甘美な、切ない、燃えるような感覚を思い出して、リディアーヌは思わず両の腕で自分を抱きしめた。
(ただ、幸せになってほしい)
いつもアルフリートはリディアーヌを救おうと奔走してくれる。そして命を落とすのだ。それならいっそ、近づかないのが正しいのかもしれない。
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「…………リディお姉さま」
「……イリーネ」
ひとり思考の海に沈んでいたリディアーヌに近づいた妹のイリーネは、いつものように花が咲くように笑う。
いつもと変わらない笑顔に見えるのに、妹の雰囲気が変わったように思えて少しだけリディアーヌは焦りを感じた。
「お姉さま、女神さまから神託を受けました」
「あ……聖女に選ばれたのね。おめでとう、イリーネ」
「お姉さま。女神さまにお会いして私、わかったんです」
美しく波打つブロンドにエメラルドの瞳の妹は、女神そのものに見える。無邪気だった瞳は、今は神々しさを湛えているようにさえ見えて。
「愛しいお姉さま。女神さまは私が聖女だと。そしてお姉さまは……」
妹はいつものように花が咲くように笑い、その唇からひとつの言葉を紡いだ。
「お姉さまは『闇の聖女』です」
その言葉に先ほどよりもさらに大きな、悲鳴にも近いざわめきが広がった。
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