序列一位の騎士と闇の聖女
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あれからバルトルトの様子がおかしい。馬を走らせているが、心ここに在らずな様子で、時々落馬しそうになっている。
たまに我に帰ったようにエリーゼを横目に見ては、すぐに目を逸らし、またもブツブツ呟いている。
「おかしい。武器の声がなんにも聴こえない。おかしい。こんなこと今までなかったのに……」
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そんなことを繰り返しながらも、数日後には辺境伯領に入ることができた。
検問の手続きを終えたバルトルトはそこで、リディアーヌとエリーゼにこう告げた。
「僕が付き添うのは、ここまででです。もう、リディアーヌ様に危険はありません」
エリーゼが片眉を上げて問う。
「お嬢様の身に万に一つでもあってはいけません。その根拠は?」
「……リディアーヌ様の身につけるその剣が、急に喋り出して。もう大丈夫だからお前帰れと」
「はぁ。なんですかソレは。でも、まぁ信じましょう。これで貸し借りなしですよ」
(微妙に理不尽だわ)
リディアーヌはそう思ったが、バルトルトは信じられないという表情で呟く。
「エリーゼさんまで信じるのか……。うそだろ」
その表情から、彼が今までそのことをほとんど誰にも語っていなかった理由がわかる気がした。
「バルトルトさま、ここまで助けていただいただけただけで十分です。このお礼はいつか必ず。……ところで私ともひとつ取引していただけませんか?」
「僕も商人の端くれです。正当な報酬を要求しますよ」
真面目な表情をしたバルトルトに対し、リディアーヌは貴族としての笑みを深める。
「闇の魔術について記載された書物が欲しいのです。報酬は、この剣を作ったお方を紹介するというのは如何でしょう」
その瞬間、何やら難しい表情をしていたバルトルトが目を輝かせて破顔する。
「えっ?!本当にっ?えっ、その魔道具の剣の作者ですかっ?うわー、材料が未知のものばかりのその剣の?!」
これで商人としてやっていけるのだろうか。そう頭の片隅によぎったが、リディアーヌは微笑んだまま答える。
「もちろんです。取引して頂けますか?」
「ハイッ喜んでぇ!」
先程までとは打って変わり、軽い足取りでこの場を去っていくバルトルトを見やってエリーゼが長いため息をついた。
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「はぁ……。お嬢様。その剣の作者をご存知なのですか?……嫌な予感しかしないのですが」
「えぇ、多分会ってくださると思うわ」
「……お嬢様は時々お人が悪い」
(嘘は言っていないのだわ)
バルトルトはああ見えて、武器に関する勘は異様に鋭い。おそらく作者のアタリは既についているような気がする。
バルトルトの喜びは愛する武器への純粋な好奇心か、それともエリーゼに再び会える機会に対する喜びか。
(たぶん両方ね)
「お嬢様。何か考えておられるようですが。あのバルを買い被りすぎです」
「そうかしら?」
「はぁ。……そうに違いありません」
辺境伯領では、しばらく荒れた大地と赤や青味がかった鮮やかな地層の高い山々を縫うように街道を進んでいく。ミカミ伯爵家と、シュノッル辺境伯家が共同で王都からの街道を整備したと聞いたことがあった。
おそらくアルフリートとリディアーヌが初めて出会ったのは、その街道について両家が会談をした時。その会談に、騎士になるため王都へ向かうアルフリートは付き添っていたのだろう。
この街道を進むのも、もう5回目になる。そのいずれの時もアルフリートが共にいた。
(それでも、もうすぐアルフリートさまに会える気がする)
まるで返事をするように、左手首のブレスレットがシャランと音を立てた。
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