挿話 騎士と商人は友となる
いつもありがとうございます。本編の合間に、アルフリートとバルトルトの出会いをご覧ください♪
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「こんにちは!僕はバルトルト・レーヴェレンツ」
(これは、どう言う状況なのかな?)
聖騎士として宿舎に泊まりこみ、アルフリートは日々血のにじむような研鑽を積んでいた。
あの日の約束を真実にしたくて誰の目から見ても必死なアルフリートだが、周囲からの心ない言葉に気持ちが折れそうになることも多かった。
それでもアルフリートは、最近随分感情をコントロールできるようになり、深海の瞳が煌めくことはほとんどなくなっていた。
それとともに、周囲の評価も正当なものへと変わっていたが、今日だけはダメだった。
聖女候補になったリディアーヌへの心ない噂を聞いてしまったから。
自分では見えないが、今、アルフリートの瞳は金色に変化して煌めいていることだろう。
「ねぇ、君の名前を教えてよ」
そんなことは全く気にしていない様子のバルトルトは、さらにアルフリートとの距離を縮めてくる。
「あの、キミはこの瞳怖くないの?」
アルフリートにとって、こんな風に煌めく瞳を怖がられなかったのは、リディアーヌに出会って以来のことだった。
「そんなことよりさ、君の持ってる剣。見せてくれないかな?相当の業物だよね?」
(そ……そんなことより?!)
リディアーヌと出会った時は、お互いの境遇に共感できる部分があった。だが、今の状況にアルフリートは珍しく混乱していた。
「……ダメかな?」
バルトルトは、上目遣いにアルフリートを見ながら、ジリジリと近づいてくる。
「いや……君にならいいかもしれない」
ぱあっと音が聞こえてきそうなほどの笑顔を見せてバルトルトが喜んだ。
「ありがとう!僕のことはバルトルトって呼んで!」
「あ……僕のことはアルフリートと」
「アルフリート!ありがとう。では、早速」
いつの間にか、アルフリートの瞳はいつもの深海のような深い青色へと戻っていた。なのにそれすら、バルトルトの瞳には映っていないようだった。
「ふーん。メインは鋼鉄だけど、ミスリルが配合されてる……。あれっ、でももう一種類混ざっているみたいだ。なんだろう?」
あまりにイキイキと剣を調べているから、アルフリートも思わず声をかけてしまった。
「父上は魔王領で採掘されたヒヒイロカネが使われてるって言ってた」
「ヒヒイロカネ!」
その瞬間、薄い茶色の平凡な瞳が大きく見開かれ、キラキラと輝いた。
「すごい!話には聞いたことがあったけど、レーヴェレンツの武器を取り扱う本店でも見たことがなかったよ!」
嬉しそうに語るバルトルトを見ていると、なんだかアルフリートまで楽しい気分になってきた。
「それよりも、剣が持ち主を選ぶって本当だったんだね!アルフリートはこの剣にとても気に入られてるのがわかるよ」
「えっ、そんなことわかるものなの?」
「秘密にしてくれる?僕、剣が何でできているのかと剣の気持ちがわかるんだ」
それは、いつものアルフリートならとても信じないような言葉だった。
(でも、信じてみたい)
この気持ちをどう表現すればいいのか、アルフリートには分からなかった。
(バルトルトと友達になれたらいいな)
「アルフリートはかっこいいね。ね、僕と友達になってくれる?」
素直に告げるバルトルトを眩しいものを見るように見つめて、アルフリートは頷いた。
「もちろん、喜んで」
この日から2人は友になった。
側でみれば武器への造詣だけは深いが他の点では頼りないバルトルトが、アルフリートにいつも助けられているように見える。
それでも、いつも普通に接してくるバルトルトの存在にアルフリートは他では手に入らない多くのものを貰っている。アルフリートは確信していた。
(きっといざと言う時、僕はバルトルトに頼るのだろう。だから僕もバルトルトの力になろう)
アルフリートが聖騎士になったとしても、たとえ2人の家柄が辺境伯家と男爵家だとしても。
それでも2人はいつも対等な友なのだから。
最後までご覧いただきありがとうございます。次回は本編に戻ります。
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