小さな約束と2人の夢
ご覧いただきありがとうございます。アルフリートとリディアーヌ、2人の出会いが気になるという感想をくださった読者さまに捧げます♪
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色とりどりの花が咲き乱れる庭。特にこの季節はコスモスのトンネルがあって、5歳になったばかりのリディアーヌにとってお気に入りの場所だった。
(誰かいる……?)
トンネルに隠れるようにしゃがんでいる紺色の髪をした少年の後ろ姿を見て、リディアーヌは家に戻ろうかと一瞬迷った。
背格好から見てリディアーヌより2.3歳上だろうか。リディアーヌの髪と瞳は闇夜と同じ色だ。そのせいで、同じ年頃の男の子たちには心ない言葉をかけられることが多かった。
(泣いてるの……?)
「あの……」
リディアーヌは、恐る恐る声をかけてみた。
「見ないで」
(あれっ?来ないで、じゃなくて見ないで?)
リディアーヌには、その言い方に心当たりがあった。
この髪や瞳を見られるのを恐れて、そんな言い方になってしまう時があったから。
リディアーヌは、コスモスのトンネルをかき分けると、少年の前にしゃがみ込んで、その顔を覗き込んだ。
「わあっ……。きれい……」
少年の瞳は、夜空の色。その瞳にはキラキラと星が輝いていた。
「えっ?きれ……い?」
少年は驚いたように顔を上げた。そして、リディアーヌの顔をみてつぶやいた。
「わ。うちにある絵と同じ女神様がいる……」
「え?」
2人は目を合わせてほぼ同時に言った。
「怖くないの?」
2人は子どもだったから、黒い髪と瞳、感情が昂ると変わる瞳は、『ことわりはずれ』と周りに言われてもその意味まではわからなかった。
それでもその言葉に恐れが含まれていることは子どもながらに、子どもだからこそ、強く感じていた。
「あのっ、お星様みたいでとてもきれいよ」
「うん、キミの髪と瞳もとてもすてきだ」
そう言って笑った少年の笑みに、リディアーヌは目が離せなくなってしまった。
「あれっ?怪我してるの?」
「うん、ちょっとね」
「そっか。じゃあ、私が治してあげるね」
ふわり。少年の膝のすり傷が、瞬く間になくなってしまう。リディアーヌは、治癒魔法だけは得意なのだ。
「ありがとう。すごいんだね。大きくなったらきっと聖女様になれるよ」
「えっ、わたしが聖女さま?」
「うん、僕はアルフリート。家族にはアルって呼ばれてる。キミの名前は?」
「私?リディアーヌ。家族にはリディって呼ばれてるわ」
リディアーヌは嬉しくなって思わず満面の笑みを見せた。その笑顔をアルフリートは少し頬を染めて見つめる。
「僕、これから騎士になるために王都へ行くんだ。リディが聖女様になったら、僕は聖騎士になって守ってあげるね」
「うん!アル、約束だよ?」
それはとても素敵な未来に思えた。
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(……夢を見ていたわ。あの少年はアルフリートさまだった。聖女になろうと思った大事な思い出だったのに、何故忘れてしまっていたのかしら)
2人は、この世界にないはずのの黒い髪と瞳、そしてやはりこの世の理を外れた感情の昂りに色を変える瞳を持っている。
それゆえに『理外れ』と影で言われることもあった。
そんな2人が出会ったその日から、運命の輪は時に残酷に、時に煌めいて廻り始めたのだろう。
(アルフリートさまに再会したあの時、瞳が煌めいていた。もしかして、年上のアルフリートさまは、あの時の約束を覚えていてくれたのかしら)
今日も旅路を急ごう。朝焼けの空を見つめて、リディアーヌは心に決めた。
(アルフリートさま。今度は私があなたに会いに行きますね)
最後までご覧いただきありがとうございました。今夜19時に、本編ではないですがアルフリートとバルトルトの出会いを投稿します。
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