聖騎士は姿を消す
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冷気を外に逃すため窓を開け、ようやく部屋の霜が溶けた頃、馬を用意するため外に出ていたバルトルトがひどく浮かない顔をして帰ってきた。
「バルトルトさま?馬が手に入らなかったのですか?それとも何かトラブルでも?」
「馬についてはご心配なく。手配はつきました。それより……お耳に入れるべきか悩んだのですが……。実は気になる噂話を聞きまして」
「うわさ……話?」
もともと、外に出ることが少なく、社交界にも数えるほどしか参加していなかったリディアーヌにとって、噂というのはあまり身近なものではなかった。
それでも、顔色を悪くしたバルトルトが言いづらそうにしているのを見て、ひどく嫌な予感がした。
「……実は、聖騎士アルフリートが、王都から姿を消したと」
(アルフリートさま、あの時明らかに様子がおかしかった)
最後に会ったあの夜のバルコニー。アルフリートは強く煌めく金色の瞳をしていた。
繰り返す人生では、アルフリートはほとんどの時間をリディアーヌの側で過ごしていたが、そこまで瞳が煌めくのは余程の場面だけだった。
(口づけのあと、意識を失ってしまったけれど、アルフリートさまは、何にあんなにも憤っていたのだろう)
「普段ならそんな噂話気にも留めないんだ。あいつは人間辞めてるほど強いし、極秘の任務もある。だけど真夜中に僕に頼みに来た時、未だかつてないほど余裕がなかったからなぁ。……何があったか知りませんか?リディアーヌ様」
心臓の音がうるさい。こんなところまで今回の人生は変わってしまうのかと、リディアーヌは震えた。
聖騎士であるアルフリートは、聖女の守護者として生きていくのだと思っていたから。
「バルトルトさま。知っているも何も、私とアルフリートさまは、こうなる直前に一度しかお会いしてないのです」
(今回の人生では……)
それを聞いたバルトルトは、瞠目したあと目を覆ってつぶやいた。
「……はっ?またひとりで暴走してるのかあいつ。リディアーヌ様のことを助けろと頼みに来たくらいだから、やっと素直になったのかと思ったのに」
(お声が小さくてよくわからないけれど、初対面の相手にここまでしてくれるのは確かにおかしいわね)
「幸いなことに闇の聖女についての噂は聞かれませんでした。あー、でもそうなると王国の混乱を招きかねない聖騎士不在の噂がこんなに早く広がったのは陽動か。あいつ、リディアーヌ様絡みだと異様に有能だよなぁ」
まだ、バルトルトは何かを呟きひとりで納得しているようだが、リディアーヌにも思うところがあった。
騎士の誓いを筆頭に、アルフリートはどの人生でも出会って早々にリディアーヌとの距離を詰めてきた気がするので、その事に慣れてしまっていたのかもしれない。
「お嬢様が気にかける必要は一雫もありません。それにあの男、何があったのかまた一層強くなっていました。忌々しい」
確かにアルフリートが早々遅れをとる相手がいるとは思えなかった。まして、さらに強くなっているとエリーゼが評するなら。
(辺境伯領なら、何かわかるかもしれない。明日は、早朝にこの街を出ることにするわ)
リディアーヌは、先を急ぐことを決めたのだった。
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アルフリート「出番がない…」
リディアーヌ「アルフリートさま…」
明日は、アルフリートとのリディアーヌのはじめての出会いをお送りします。
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