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繰り返しの元聖女は聖騎士改め暗黒騎士を守りたいのに溺愛される  作者: 氷雨そら
第1章 聖女は聖騎士を救いたい
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鍛治師のプライドと商人の本領

ご覧いただきありがとうございます。


今更気づいた誤字の指摘、本当にありがとうございます!!いつもご協力感謝しかないです。

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 予想以上に馬車は順調に進み、3日後には王都から近い街マリエンシュタットにたどり着いた。ここは、王都に近いミカミ伯爵家の領地でもある。


 黒の髪と瞳をしたリディアーヌはこの地では、あまりに有名だが、バルトルトが用意してくれたカツラと目の色を変えて見せる不思議なメガネで今はバルトルトのような薄い茶色の髪と瞳になっている。


 魔道具はとても貴重だ。こんなものを用意することが可能なバルトルトは、やはりすごいのだろう。


 それにバルトルトの顔が広いおかげで、とくに怪しまれることはなく過ごせていた。


(とりあえず、剣と馬を手に入れたい)


 リディアーヌは裏通りに入っていった。この奥に、少々変わっているが腕は確かな鍛冶師が工房を構えている。


 偶然迷い込んで鍛冶師に実力を認められた4回目の人生以降、いつもリディアーヌはこの工房で愛剣を手に入れている。


 彼は買う人を選ぶプライドの高い職人だが、一度懐に入れた人間にはとても親切だった。


 軋む重い扉を開けて、工房に入ると奥にいた男がちらっとこっちを見て声を上げた。


「冷やかしなら帰ってくれ。ここはお嬢ちゃんのような子が来る店じゃない……。いや、そちらのメイドさんは腕が立ちそうだ。そちらのメイドさんの武器を探しに来たのか?」


「いいえ、私の武器をいただくわ」

「お嬢ちゃん、武器はおもちゃじゃな…………。おっと……これは失礼した。俺の目も曇ったかな」


 リディアーヌが光魔法を発動し、身体強化をすると職人の対応が目に見えて変化した。


 職人の男は立ち上がって、入り口でリディアーヌたちを出迎える。その瞳に先ほどの拒絶は見られない。


「俺は鍛冶師のルッツだ。そちらのひ弱そうな兄さんも客なのか?」

「否定できないのが悲しいですが、これでも武器を見る目はあるつもりです」


 そう言うと、バルトルトは装飾のないごく一般的な見た目の短剣を手にした。


「例えばこの短剣。なんてことはないように置いてありますが、ミスリルに魔鉄を配合した素晴らしい業物ですね。ミスリル8に魔鉄2か……?作るときの難易度が格段に高まるから市場には出回らないけど、この配合なら魔法の伝導率も高く決して壊れない強靭さもある。こんな店が王都の近くにあるなんて……」


「ふーん、あんた商人か。久しぶりにそんな目利きをする人間を見た。その服装からして貴族みたいだな。とするとレ-ヴェレンツ家の関係者か?」


 バルトルトは商売用の堂々とした笑顔でルッツに話しかける。


「今は訳あって名乗ることができないことをお許しいただきたい。しかし認めて頂けたなら今後取引をして欲しいものですね。本当に素晴らしい品ばかりだ」


「今日は面白い客が来たもんだ。あんたのこと気に入った。見てのとおり小さな工房だ。数を出すことはできないが、あんたになら一流の品を用意してやってもいい」


「商談成立ですね。状況が落ち着き次第必ず伺います。そのときは家名を名乗り改めて非礼を詫びさせていただきます」


 ルッツとバルトルトが固く握手する。


(すごい……あのプライドの高い鍛冶師のルッツさんに武勇以外で気に入られた人、初めて見たわ)


「さて、待たせて悪かったお嬢ちゃん。いやその言い方は失礼か。でも、そんなもので元の姿を偽っているところを見るとあんたも名乗れないんだろ?じゃ、客人でいいかな。今俺はとても気分がいい。最高の武器を用意してやる。……と言いたいところなんだが」


(ルッツさん、流石だわ。でも、なにか気に入らない要素があっただろうか。機嫌は今まで出会った中でも一番良さそうだし、身体強化をすればルッツさんのお眼鏡にかなうはずだったのだけれど)


 リディアーヌの焦りをよそに、ルッツの視点は左手にくぎ付けになっていた。


「間違っていたらすまん。だが、その左手首のブレスレット。もしかして魔道具じゃないのか?」

「えっ?魔道具?」


 おそらくアルフリートに着けられたのであろうブレスレットを、リディアーヌはまじまじと見つめた。


 こんな一流の意匠の装飾品、それも魔道具なんて、その機能によっては神殿の奥深くや王城の宝物庫にしかないほど貴重な代物のはずだ。


「もし可能なら、見せてもらうことはできるだろうか」

「はい、ルッツさんにならもちろんお見せします」


 ルッツがリディアーヌの手から外そうとすると、ブレスレットが外されるのを拒絶し威嚇するように震えた。


「しかも、所有者を選ぶ魔道具かよ……。無理に外すと何が起こるかわからん。恐ろしいもんをもってるな客人。そのままつけていてくれて構わない。見せてもらえるか」


 左手を差し出すと、ルッツは食い入るようにブレスレットを調べ始める。


「やっぱりな。これをあんたに着けた人間とこれを作った人間の執念が怖いくらいだ。客人、魔力をブレスレットに流してみるといい」


 リディアーヌは言われた通り、魔力をブレスレットに流す。

「ふぅ。本当に今日は何度も驚かされるな。客人は光魔法も使えるのか。だが、このブレスレットは闇属性だ。流すのは闇の魔力の方だ」


(私が持ってるのは光の魔力だけで闇の魔力なんて、持ってないはずだけど)


 闇の魔力は光の魔力よりもさらに希少性が高い。それ故にどんなことができるのかさえ謎に包まれている。


 幼いころから、光魔法の癒しの力が強く、魔法についての造詣が深いリディアーヌだが、闇魔法について詳しくは知らなかった。


「どうしたんだ?できないはずないだろ。闇の魔力がなかったら、そのブレスレットは装着する事すらできないはずだ」


(あれ、なんだか唇に違和感が……)

 その時浮かんだイメージは、アルフリートとの口づけの瞬間だった。


(私、何を考えて……でも、魔法の痕跡が残ってる?これを辿ればもしかしたら……)


 唇に感じられる魔法の残影を感じながら、もう一度ブレスレットに魔力を流す。


 その瞬間、どろりとブレスレットが形を変え、リディアーヌの目の前に細身で黒い刀身、薔薇の蔓が絡まる意匠の神々しくも禍々しい剣が現れた。


(えっ、この剣ってまさか、まさか!)


「これは……想像以上の代物が出てきた。悪魔か神が作ったとしか思えない、これは魔王が使っていてもおかしくない最高の魔剣だな。こんな剣を拝むことができるとは、魔王にでもいいから感謝したい気分だぜ」


 そう、ルッツの言う通りこれはおそらく魔王の剣なのだ。


 6回目にリディアーヌとアルフリートの命を奪った魔剣が強い存在感を示してリディアーヌの手の中にあった。

最後までご覧いただきありがとうございます。

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